大手運営会社の新設保育所の開園事情が示す問題:「『ルポ 保育崩壊』保育士不足」から(2)

ルポ 保育崩壊
小林美希さん著・2015/4/21刊・岩波新書)
を参考にしてのシリーズ:「『ルポ 保育崩壊』保育士不足から」
を始めました。

第1回:保育所急増・待機児童増状況での保育士問題を考える
今回は、第2回です。
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 第2章  保育士が足りない!?(1)
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高まる保育の需要に保育士の人材確保が追いつかないため、現場は
空前の保育士不足に陥っている。
 子どもの命を預かり、親の雇用を守る仕事でもある保育士の処遇は
あまりに悪く、真剣に親子と向き合う保育士ほどバーンアウト(燃え
つき)して辞めていく。
 保育士の資格を持つながら実際に保育士として働いていない「潜在
保育士」は。60万人以上に上る。
 この章では、保育士の労働実態や処遇について焦点を当て、なぜ保
育士が辞めるのかを浮き彫りにする。

<いきなり一歳児の担任に>
親子にとって決して優しいとはいえない保育現場は、働く側の保育士
にとっても”悲惨な職場”となっている。

 「とにかく”保育”なんてできない状態。みな、疲れ切って、何とかみ
ているのがやっと」
 株式会社が大展開する有名な認可保育所で働いていたYさん(40歳)
は振り返る。
 保育士の労働条件が悪ければ、決して良い保育などできない。
 同僚の保育士が続々と辞め、Yさん、わずか1年で他の保育所に転職した。
 
 もとは幼稚園教諭だったYさんは、30代後半で子どもを授かり、一時は
専業主婦になったが、夫がうつ病になったことをきっかけに再び働き始め
た。その際に選んだのが、保育の道だった。
 求人広告を見れば、どもにでも「保育士募集」の文字が躍っている。
 とにかく正社員で勤めたいという一心で、求人広告でたまたま見つけた
大手の保育所運営会社に応募。
 次々に保育所をオープンさせているため、見学に行くと、園長が「ブラ
ンクがあっても子育て経験があれば大丈夫。幼稚園の経験があるし、大丈
夫ですよ」と、優しいフォローがあるような雰囲気を醸し出した。
 
 採用が決まり、短大や専門学校卒などの保育士の月給は一律で18万円、
四大卒で19万円。この他、担任の事務処理、残業代を含む「クラス手当」
が月2000円、行事が年3回あり、1回あたり5000円が支給されるという条
件が提示された。
 企業に就職することで安定するのではないかと考え、「まあ、大丈夫
かな」と思ってしまったのが「地獄」への入り口となった。
 都内で4月に新しく開園する保育所がYさんの勤務地となった。
 3月30日、指定時に現地に集合するように命じられ、4月1日から一緒に
始めていく保育士仲間との顔合わせをするのだろうと意気揚々と向かった
が、いざ到着すると、担任がまだ決まっていない状態だった。
 そればかりか、2日後にオープンして子どもたちを受け入れるというの
に、内装工事中で、ロッカーが壁に打ち付けられている真っ最中で、よう
やく配送業者からおもちゃや絵本が届いているところだった。
 「これはいったい、どういうことか」と疑問に思いながらも、皆で急い
でカラーボックスを組み立て、絵本やおもちゃを配置した。
 その日、普通なら入園前に行われる保護者との面接はないままに終わっ
た。

保育士のメンバーを見ても不安ばかりが募った。
 グループ内から正社員の保育士が4人、契約社員1人が移動してきた。
 Yさん以外の最年長者が28歳で保育士歴は2年目。
 Yさんは、右も左も分からないうちに一歳児クラスの担任となりリーダー
を任された。

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書名に「ルポ」とあるように、まさにルポなので、長々となってしまいま
すが、できるだけ原文のまま転載したいと思っています。
業種がまったく違いますが、私も小売店や外食店のオープンにはよく関わ
った経験があります。
多くはチェーン店で、開店準備マニュアルやチェックリストに沿って開店
準備を進め、開店マニュアルを参考にしながらオープン業務を行う。
多少は計画のズレや落ちがありますが、数をこなせばこなすほど、効率よ
く、かつ洗練された運営が可能になります。

チェーン展開する保育所や介護施設でも、そうしたマニュアルは原則ある
と思いますが、特に計画通りには運ばないのが、人材・スタッフの募集と
トレーニングなど。
これも想定されるところですが、本部のバックアップ体制が整備されてい
れば、なんとか初期は乗り切れるようサポートがあることも・・・。

しかし、保育や介護など、慢性的人材不足問題を抱える業界では、計画な
ど画に描いた餅、というようなことは想定内のことと言うべきかもしれま
せん。

さて勤務初日から、今後の困難・不安が予想されたYさん。
商品や料理を提供する業務とは全く違い、相手が乳幼児とその親御さんと
いう人。

次回、<ひたすら慌ただしい毎日>に続きます。

頭痛
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<『ルポ 保育崩壊』構成>
第1章 保育の現場は、今
第2章 保育士が足りない!?
第3章 経営は成り立つのか
第4章 共働き時代の保育
第5章 改めて保育の意味を考える

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