保育士不足の真因改善無しには、潜在保育士呼び戻しは逆効果:『ルポ 保育崩壊』保育士不足から(9)

ルポ 保育崩壊
小林美希さん著・2015/4/21刊・岩波新書)
を参考にしてのシリーズ:「『ルポ 保育崩壊』保育士不足から」

第1回:保育所急増・待機児童増状況での保育士問題を考える
第2回:大手運営会社の新設保育所の開園事情が示す問題
第3回:疲弊し、退職が止まらない保育士の現場実態
第4回:保育士不足を招く保育現場の実態調査から
第5回:社会福祉法人運営保育所もブラック化?
第6回:潜在保育士・潜在介護士。共通の問題を抱える保育・介護事業
第7回:保育現場では、女性による保育士へのマタハラが日常茶飯事?
第8回:職場流産が多い保育現場と保育士の現状その後ちょうど1か月休んでしまいました。
2015年も残り少なくなり、第2章はなんとか年内に終えておき
たいと思い立ち、急遽再開。
今回は、第9回です。

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 第2章  保育士が足りない!?(8)
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<恐ろしくて働けない>

良い保育ができるかどうか。
保育士にとって、大事な労働条件のひとつでもあるだろう。
その点、保育士からみてもずさんな保育をしている保育所が多く、
身の危険を察知して遠ざかる経験を持つ人も少なくない。

子育てがひと段落してパートの保育士として働く、50代のFさん。
今まで複数の都内の保育所でのパート勤務経験で、「恐ろしくて
働き続けられなかった」体験を語ってくれた。

◆ある公立保育所で・・・
まだ手づかみで食べることの多い二歳の子に担任の保育士が「手
で食べてんじゃねーよ!」と、その子の手を強く振り払っていた。
その保育士は、園長に対して幼児クラスへの持ち上がりを訴えて
いたが、園長は「私がここにいる限り、あなたが持ち上がることは
ありません」と断言したという。
それというのも、0~二歳児であれば担任が四人のため、こうし
た保育士が一人いてもまだ他の三人でカバーできるが、三~五歳児
は担任が二人しかいないため、いやな保育士とペアになる他の担任
が苦労し、子どもにとっても先生の影響が置きすぎるという配慮か
らだった。

◆ある認可外保育所では・・・
「0歳児を入れるとお金になるから」と、0歳児を積極的に受け
入れていたが、「手がかかるから、寝させておけばいい」という考
えだった。
保育時間、午前中も寝かせ、昼になるとまた寝かせようとする。
当然、子どもは起きたばかりで眠れない。
すると保育士が座って膝を立て、足と足の間に赤ちゃんを挟み、
動かないようにしてトントントントンとたたいて無理やり寝かしつ
けていた。
そこは夫婦で経営している小規模保育所だった。
若い保育士が辞めようとした時、経営者は「ここ辞めてキャバク
ラに行くの?あんたみたいな子は、どこに行ったって働けないよ」
と脅していた。
Fさんは「こんnあの保育ではない」とすぐに辞めた。
このような保育所でも、その数年後、認可外保育所から東京都の
認証保育所として認められていた。

◆他の認可外保育所で・・・
Fさんが自分の子が熱を出したらどうしたらいいかと園長に尋ね
た時には、「だったら、ここの連れてきて、そこらへんに寝かして
おけばいい」と言った。
 面接は通ったが、「ここは酷い保育園だ」と思って辞退した。

◆自宅近辺で働こうと、電話帳を見ながら応募した保育所で・・・
 午前中だけパート勤務をしていたが、Fさんが辞めた後で園児が
窒息死する事件を起こしていた。
 保育所の経営者は保育所の「保育」は未経験だった。
 専門としての「保育」が分かっていないため、朝、子どもたちが
登園してもダラダラと過ごし、食事の時間がくれば「はい、みんな
ー、ごはん!」という調子だった。
 食事もお昼寝も六畳一間のマンションの一室で行われていた。
 そこに異年齢の子どもたちが集められ、ドアを閉めて経営者は別
室で自分の時間を過ごしていた。
 保育士の勤務終了時間がくれば「先生たち、帰っていいよ!」と
保育士を帰して、自身が子どもたちを見ていた。
 備品は綺麗なものばかりで、一見。きとんとした保育所のようだ
ったが、Fさんは「この保育園は怖い」と察して辞めた。
 園児が窒息死したのは、その後すぐだった。
 事件後閉園となったが、そうした保育所が電話帳にも公然として
掲載されていたことを思い出すと身震いした。

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なにか、テレビで保育所恐怖ストーリーを見せられているような内容
で、問題シーンが想像できる感覚があります。

年の瀬も押し迫ったおりに、このような内容を紹介するのは気が引けた
のですが・・・。
申し訳ありません。

政府の、新3本の矢による出生率1.8をめざす緊急対策。
潜在保育士に保育現場に戻ってもらうために、補助金・一時金を支給す
ると言っています。

文中の事例はごくごく稀な例なのか、日常的に多くの保育所で起きてい
ることなのか分かりません。
しかし、万一こうした問題保育の現場に戻り、同様の経験をしてまた辞
めてしまうことになれば・・・。
政治・政府の責任は非常に大きく、重いと思うのです。

その問題については、先日
一時金で保育士の復職期待と人材確保の緊急対策の評価:定着のための問題解決・改善策が先
で触れました。

希望の保育所に入れない子どもを抱えた親御さんの不安は、保育の質が
どうこうという前に、まずはなんとか入れることに向かいます。

年明け、新しい入園・入所時期を迎えるにあたり、多くの親御さんの心
配は、新三本の矢で癒されも、解決もされないでしょう。
緊急対策とは名ばかり。

これからの3カ月。
自治体は総力を挙げて、管轄内のすべての保育所・保育園の保育の現場
の実情、保育士の働き方の現状を視察・把握すべきと思うのですが・・・。
すべてを把握することは当然ムリですが、いつどこで抜き打ち視察がある
か分からない。
そういう緊張感を持ち、責任感を持つ責任者・保育士ですべての施設が
運営されるように・・・。
政府・自治体は、2016年はその改善・改革の年にすべきと考えます。

子どもたちと親御さんにとって、良い年になるように願ってやみません。

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