潜在保育士になる恒常的要因が深刻化していく保育現場:『ルポ 保育崩壊』保育士不足から(13)

ルポ 保育崩壊
小林美希さん著・2015/4/21刊・岩波新書)
を参考にしてのシリーズ:「『ルポ 保育崩壊』保育士不足から」


【第2章 保育士が足りない!?】
第1回:保育所急増・待機児童増状況での保育士問題を考える
第2回:大手運営会社の新設保育所の開園事情が示す問題
第3回:疲弊し、退職が止まらない保育士の現場実態
第4回:保育士不足を招く保育現場の実態調査から
第5回:社会福祉法人運営保育所もブラック化?
第6回:潜在保育士・潜在介護士。共通の問題を抱える保育・介護事業
第7回:保育現場では、女性による保育士へのマタハラが日常茶飯事?
第8回:職場流産が多い保育現場と保育士の現状
第9回:保育士不足の真因改善無しには、潜在保育士呼び戻しは逆効果
第10回:保育士の適性とは?保育士資格制度に問題はないか?
第11回: 非正規職員化で増える、保育現場の女性間人間関係課題
第12回:保育現場と保育事業に必要なマネジメントの概念と行動
今回は第13回・最終回になります。

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 第2章  保育士が足りない!?(12)
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<元園長でも時給850円>
横浜市内の株式会社運営の保育所で園長を経験したことのあるTさん、40歳。
現在パートの保育士となり、せっかくの保育技術も活かせないでいる。

32歳で最初の子を出産後、育児休暇を取り、2年間は園長として勤務したが、

その間実家の両親と同居し、子どもの世話で頼り、自分の子どもとの時間が
持てなかった。
次の出産での育児休業後、園長としてでなく、系列の保育所でのパート保育
士として復帰。
その際、時給850円に。交渉の余地なく変わらなかった。
しばらくして自宅から近くにできる会社の保育所にパートとして変わった。
7時から12時までの週4日勤務。総長は時給1100円だが、9時以降は950円。
園長経験でも時給に反映されず、保育についても完全に補助者の扱い。
若い保育士への助言もできず、保育補助としての役割に留まった。

長時間労働が恒常化している保育の世界では、自分の子を育てたければ

非正規になるしかなく、Tさんのような人材が埋もれてしまっている。
市の小規模保育所の男性園長のJさん、50代後半。
大ベテランの園長だが、年収は400万円と薄給だ。
9人の乳幼児に対して、保育士はフルタイムの市職員2人、パートの有資格
者1人と無資格者2人の合計5人で保育にあたっている。
正職員が園長含め2人しかいないため、1週間おきに早番と遅番を担当。
もう一人の正職員は27歳の女性で幼稚園の職務経験はあるが保育所では経
験がなく、乳児をみるのは初めて。
無資格のパート保育者は、近所に住む家庭の主婦で子育て経験はあるが、
集団の保育経験はないため、自分の子育て方法がそのまま保育にでてしま
うのがJ園長の悩みだ。

(略)(好ましくない対応を注意し)月1回のミーティングで教えるが、

それを無資格者にまで理解してもらうのがなかなか難しい。

長く務める保育士も、退職金分の人件費が考えられておらず、ベテラン
も燃えつき、心身ともにボロボロになっていき、潜在保育士になってしま
う。プロとしての誇りとやりがいを持って保育ができる環境にならなけれ
ば職場復帰はできないのではないか。株式会社は保育マニュアルを作って
若い人を入れ、数年たって辞めて入れ替わってくれればいいのだろうが、

それで保育が成り立つのか」と大きな疑問を感じている。
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保育所の運営費の中の保育士の人件費は、2014年度で「本俸基準額」で所長

(園長)は25万4900円、主任保育士で23万1948円、保育士で19万7268円、
調理員で16万8100円となっている。
「人件費(年額)」は、同じ順に、約466万円、約430万円、約363万円、
約299万円となる。
この算定には国家公務員の俸給表が用いられているが、若い層の俸給表が
用いられているため、全産業の平均賃金を上回らない原因となっている。
厚労省の「賃金構造基本統計調査」によれば、全産業の平均賃金は年295万
7000円で勤続年数が11.9年であるが、保育士は年207万4000円で同7.6年と
なっている。保育士が辞めるのは、低賃金、長時間労働に加え、良い保育ができなくな
ることも大きい。
バーンアウトして辞めていけば、二度と保育の現場には帰らない可能性が
高まる。
国と自治体が保育士の働き方や処遇について本気にならなければ、保育士
不足はますます加速していくだろう。
以上で、第2章を終わります。

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どうも保育業界自体に内在する問題が大き過ぎ、多過ぎる。
そんな感じを受ける第1章と第2章です。

事業運営・経営者に根本的な問題があるのですが、そればかりとは言えない。
管理職も、どこか他人事、みたいな感じも受けてしまうのです。

しかしよくよく考えてみれば、一般の企業でも似たり寄ったりのことはある
わけで、保育や介護業過だけが特殊で異常なわけではない。

そんな気がして仕方ありません。
要は、保育や介護業界が、今まで、マネジメントや業務改善、人材育成、管
理者養成に本気で取り組んでこなかった・・・。
そういう問題意識や取り組みが、必要なかった。
そういう意味では逆説的に、特殊な世界だったと言えるかもしれません。

ところが、当たり前に行うべきことがあることがようやくここ数年ではっき
りしてきた。
しかし、その取り組み方・方法が分からない。
リーダーシップを取る人もモデルとなる経営者もいない。
そういう一面がある。
長く、公的な事業であったゆえに・・・。

私のこの一年での結論です。
そろそろ大手異業種が保育事業や介護事業に乗り出す機会が増えてきつつ
あります。
そういう点で、2016年が業界の転換点にならないか・・・。
かすかに期待しているのですが、どうでしょうか・・・。
儲かるから参入する・・・。
経営者の経験・資質を備えていない者が参入する、参入してきた懸念も・・・。

政府の緊急対策も保育現場には、あまりというかほとんど頼りにはならない
のでは、と思っています。

未婚率、シングルマザー、妊活・・・
さまざまな関連する課題が、重なり合って、改善の方向に向かわなければ
どれも中途半端の掛け声だけに終わってしまう人間の生き方と社会のあり方
の課題。

永遠に解決することはないのですが、新しい年、少しでも光明が見出せる
ことを祈りたいと思います。

今年1年、当<世代通信.net>をお読み頂きましてありがとうございました。
来る年、より自分流を押し出して、世代間の課題、世代を超えた課題につい
て考えていきたいと思います。

皆様にとって、新しい年が、より希望を持つことができますよう、心から
お祈り申し上げます。

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【小林美希さんプロフィール】
1975年生、神戸大法学部卒後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』
編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。
若者の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。
2013年「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメント
に関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。
著書:『ルポ 正社員になりたい』(2007、日本労働ペンクラブ賞受賞)
『ルポ ”正社員”の若者たち』(2008)『看護崩壊』(2011)
『ルポ 職場流産』(2011)『ルポ 産ませない社会』(2013)
『ルポ 母子家庭』』(2015)など

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◆「保育の問題は、女性の労働、女性の貧困の問題と深く関わっている
単純に「預け先を確保できればいい」というだけではない、根の深い問題だ。
そこを変えていくための社会変革が必要で、それには政治を変えることが
最も重要になってくる。」猪熊弘子著:『「子育て」という政治 』より)
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【<保育・子育て>共有理念】

生まれてきたすべての子どもは、平等に、保育の機会を与えられる。
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