高齢期の生活維持のための貯蓄がない現実:『下流老人』の今と明日(3)
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下流老人とは、
「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」
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今年2015年6月に刊行されたベストセラー
『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)
その著者は、自らNPO法人ほっとプラス を設立・運営する藤田孝典氏
この若い世代が描き、社会に警鐘をならした、高齢者の貧困問題を、
その書を参考に引用させて頂きながら、考える
<『下流老人』の今と明日>
「第1章 下流老人とは何か」
第1回:下流老人とは?その定義と問題の視点
第2回:下流老人に多い相対的貧困者
今回は第3回です。
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2.下流老人の具体的な指標 3つの「ない」(2)
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<十分な貯蓄が「ない」>
二つ目に下流老人は貯蓄が少ないか、あるいはまったくない。
(初めの「ない」)のように収入が少ないなら、生活費などは、これまで
の貯蓄に頼らざるを得ない。
わたしたちも支援を行う上で、まず、相談に来られる方々の貯蓄額を聞く
ようにしているが、「すでに貯金を使い果たしてしまった」「あと50万円
程度しかない」など、切迫した状況であることがほとんどだ。
このように十分な貯蓄がない状態では、健康で文化的な生活を維持できな
い恐れが高いばかりか、突然の事故や病気、介護などの生活上のトラブルに
襲われたときに、たちどころに生活が破綻してしまう。
そのような予想外の支出は、高齢期にはよくあることだ。
たとえば、脳梗塞のような大きな病気を患い、自宅を離れ、有料老人ホー
ムに入居しなければならなくなっとしたら、その際の入居金や必要経費を払
えるだろうか。(略)
思い描いた理想の老後、もしくは「普通の余生」を過ごしたければ、決し
て少なくない額の貯蓄が必須な社会にわたしたちは生きているのだ。
では現実的に、老後の生活にはどのくらいのお金が必要になるか?
<平成26年総務省「家計調査報告」ベース>
高齢期の2人暮らしの場合、1か月の生活費平均は、社会保険料などすべて
込みで約27万円。
65歳になった時点で、仮に年金その他の収入が月約21万円あっても、貯蓄
額が300万円では約4年で底をつく。
仮に1000万円あっても、14年弱しかもたず、最終的に貧困に陥る可能性が
ある。
<厚労省「平成25年国民生活基礎調査概況」ベース>
高齢者世帯の平均貯蓄額は1268万1千円。
一見多くの高齢者世帯が十分な貯蓄を用意しているように見えるが、実際
には「貯蓄なし」世帯が16.8%もいる。
さらに、4割以上の世帯が貯蓄額500万円に満たない。
また平均と言っても、ごく一部の富裕層が平均値を高めているため、多く
の人の実際の貯金額はもっと低くなる。
(統計の平均についての注意書き・略)
<内閣府「平成26年版高齢社会白書」ベース>
現役世代について、世帯の高齢期への経済的な備えがあると感じている者
は、約2割。
その内訳は、「十分だと思う1.6%」「最低限はあると思う21.7%」を合わ
せた「備えはある」とする人は23.3%。
「少し足りないと思う16.5%」「かなり足りないと思う50.4%」を合わせた
「足りない」とする人は66.9%にのぼる。
また、若年層ほど「足りない」と答える人の割合が高くなっている。
貯蓄がないと老後をまともに暮らせない社会において、このデータは恐ろし
い事実ではないだろうか。
まだ労働期間が短い若者に貯蓄がないことは理解できるが、ここには40代
や50代の回答も含まれている。
間もなく高齢期を迎える人々においても、十分な貯蓄が形成されていない
のが現状なのだ。
次回は、<(3)頼れる人間がい「ない」>です。
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現実的にこうした不安があるからこそ、日本人の貯蓄率が高い要因になって
いるのですが、まだまだ十分ではない人が相当の比率でいるわけです。
特に、病気やケガでの高額医療費の発生に対する不安感は、だれもが抱えて
います。
そして介護。
介護離職や老老介護での経済的負担・不安は、もう予想内・予定内とすべき
状況に入ってきている。
そう言えるのでは、と思います。
こうした時代において、消費者物価を上げることを目標とする経済政策が的
を射ていないことは明らかなのですが・・・。
高齢者は新たな収入を得る機会があるわけではなく、現役世代も非正規就労
者の比率が一向に高まらず、賃金引き上げも一部の大企業にとどまる状況を、
アベノミクスの掛け声だけでは変えることはできません。
となると、すべての世代が、自衛する方策を考えること。
地方自治体レベルでその自治体の特性を生かした行政を具体化し、生活コス
トをその地域内で下げていく取り組みを起こすこと。
その両方を融合すること。
従来とは異なる視点で、地方再生・地方創生とを、個人と地域社会とを結び
つけることで具体化する・・・。
資源を見直す。
それも一つの課題、選択肢に据えるのも良いのではと考えます。
高齢者が長く働き続け、収入を得ることを支援する活動も、当然そこに含み
ます。
次回は、3つ目の「ない」、<頼れる人間がい「ない」>に続きます。
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なお本書の体系は、次のとおりです。
第1章 下流老人とは何か
第2章 下流老人の現実
第3章 誰もがなり得る下流老人
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人
第6章 自分でできる自己防衛策
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
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