親子両世代、共倒れのリスク:『下流老人』の今と明日(5)

下流老人とは、
「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」
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今年2015年6月に刊行されたベストセラー
下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)

その著者は、自らNPO法人ほっとプラス を設立・運営する藤田孝典
この若い世代が描き、社会に警鐘をならした、高齢者の貧困問題を、
その書を参考に引用させて頂きながら、考える
<『下流老人』の今と明日>

 「第1章 下流老人とは何か」
第1回:下流老人とは?その定義と問題の視点
第2
回:下流老人に多い相対的貧困者
第3回:高齢期の生活維持のための貯蓄がない現実
第4回:一人暮らし高齢者の増加と社会的孤立化

今回は第5回です。

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 3.下流老人の何が問題なのか?(1)
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 下流老人の3つの「ない」。
 ① 収入が著しく少ない
 ② 十分な貯蓄がない
 ③ 頼れる人間がいない
下流老人とは、言いかえれば「あらゆるセーフティネットを失った状態」
と言える。(略)
 このような3つの下流老人の構成要素を抱える人々が増えている理由の
多くは、現在の社会構造に問題がある。
単に、「かわいそう」とか「自分の将来が不安」というだけの問題では
ないのだ。
ましてや個人の「自己責任」や「自助努力」で解決できる問題でもない。
 下流老人の問題を放置すれば、当事者が貧困に苦しむだけでなく、社会
的にも大きな損失を生むことになる。
では、下流老人の問題は、社会に対しどのような悪影響を生むのだろう
か。以下、いくつか分析する。

施設シニア

<悪影響Ⅰ 親世代と子ども世代が共倒れする>
 まず、身内の誰かが下流老人になった場合、その子どもたちも共倒れす
るような事態が考えられる。
親が生活に困ったら、多くの子どもは援助したいと思うのが実情だろう。
しかし、親の面倒を見たくても、経済的事情がそれを許さないという問
題もある。

親世代が高齢期(65歳以上)に入る確率の高い40代前半(40~44歳)
家庭を例に。
(モデル家庭は給与所得者の夫、専業主婦、18歳未満の子1~2名)
 40代前半男性サラリーマン平均給与 568万円
 ・同年代1世帯当たり支出 1か月約41万円、年間約492万円
 ・差引約76万円
 仮に毎月5万円親を援助すると、60万の支出で残高は16万円
これでは、将来安泰とは言えない。
親が年を取るほど医療費や介護費がかさんで上乗せされてくるし、子ども
や自分自身が大きな病気や事故に見舞われる可能性も少なくない。
また、平均値でなく、より実態に即した中央値で計算すれば、ほとんど貯
蓄できないか、逆に赤字になる可能性すらある。

このように、経済的に依存せざるを得ない高齢者を扶養することは、現在
のごく一般的な家庭モデルから見ても、子ども世代に相当な負担を強いるこ
とがわかる。
ましてや、現役世代の平均給与は微減傾向にあるだけでなく、正社員に比
べ年収が数百万も劣る非正規雇用者に数は年々増加の一途を辿っている。
このような社会状況において、家族扶養を前提とした従来型の社会福祉モ
デルは、もはや限界に達しているといっても過言ではないだろう。

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「家族扶養を前提とした従来の社会福祉モデル」というのが、子が親を扶
養することも含んだシステムと解釈するのは、どうでしょうか?
それは法で強制されるものではないので、福祉モデルとして捉えることに
は、多少違和感があります。

心情的には、子が親の面倒をみることは、慣習的・世間的にもそうだと言
えます。
しかし、わたし自身は、親は自分の子どもを養育し、自立させることが責
務であり、親は自らの責任で自分の生を全うする・・・、精神的にも経済的
にも・・・。
これが望ましいあり方であり、同様、子は自立し、自分の家族・家庭を創
造し、親に頼らずそれを維持し、守り、責任を果たし、次世代につないでいく。

そういう意味では、高齢の親の介護のために介護離職せざるを得ない社会
構造と社会システムは異常であると考えます。
その責任は、社会だけではなく、親自身にもある。
厳しくみればそう言えると感じます。

まして、親の年金や資産を当てにし、親の介護の名を借りて働かないパラ
サイトの子ども世代が存在することなど、あってはならないことと思います。

親子両方の世代の共倒れのリスクは、親子両方の世代のもたれ合いの一つ
の表れ・・・。その性格もあるのではないでしょうか・・・。

団塊の世代に属する親は、子どもに甘いと言われますが、その甘さは、自
分が介護される状況になった時に、団塊世代ジュニアの子どもに、面倒をみて
もらうことを期待・想定してのことなのでしょうか・・・。

団塊世代の塊が大きいがゆえに、資産・年金受給の格差も世代内で大きく、
多いと思われます。
その中の少なからずが、下流老人化するリスクを抱えています。

福祉制度を含む社会システムの改善・改革は当然必要ですが、私たち一人
ひとりの親子関係や夫婦、自分自身の生き方、人生のあり方について、しっ
かり考え、将来に備えることも欠かせないこと思います。

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次回は、下流老人化社会への<悪影響Ⅱ><悪影響Ⅲ>に続きます。

 

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なお本書の体系は、次のとおりです。
第1章 下流老人とは何か
第2章 下流老人の現実
第3章 誰もがなり得る下流老人
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人
第6章 自分でできる自己防衛策
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
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