若者が抱く老後不安の社会構造を変革する道は?:『下流老人』の今と明日(7)
下流老人とは、
「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」
ベストセラー『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』
(藤田孝典氏著・朝日新書・2015/6/30刊)より。
NPO法人ほっとプラス を設立・運営する若い世代の同氏が描き、
社会に警鐘をならした高齢者の貧困問題の書を参考に引用させて
頂きながら、考える<『下流老人』の今と明日>
「第1章 下流老人とは何か」
第1回:下流老人とは?その定義と問題の視点
第2回:下流老人に多い相対的貧困者
第3回:高齢期の生活維持のための貯蓄がない現実
第4回:一人暮らし高齢者の増加と社会的孤立化
第5回:親子両世代、共倒れのリスク
第6回:尊敬される高齢者とは?
今回は第7回です。
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3.下流老人の何が問題なのか?(3)
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下流老人の3つの「ない」。
① 収入が著しく少ない
② 十分な貯蓄がない
③ 頼れる人間がいない
下流老人とは、言いかえれば「あらゆるセーフティネットを失った状態」
と言える。(略)
この問題は、社会に対しどのような悪影響を生むのだろうか、分析する。
<悪影響Ⅲ 若者世代の消費の低迷>
高齢者が尊重されない社会であれば、若者が自分の将来や老後に希望を
持てるはずもない。
すると若者は必然的に「貯蓄」に向かうことになる。
下流老人にならないために、計画的に生活していかなければならないと
いう、強力なインセンティブが働くからだ。
よく「若者の〇〇離れ」がニュースで話題になるが、その根底にあるも
のはすべて自分の生活の先行きに対する不安であろう。
若者は自動車もマイホームも買わず、生活も質素で禁欲的な暮らしをし
ていると言われる。
「老後に備える」ためだけに、貯蓄に精を出す若者は、私の周囲にも増
えている。
(略)
本音では、若者は消費をしたいし、欲求がないわけではない。
多くは結婚だってしたいし、子育てもしたいと思っているはずだ。
いつの時代も若者論が提示されるが、時代によって若者の欲求が大きく
変わることなど、そうはない。
変わるのは社会構造である。
”そうできない”要因や要素に目を向けていかない限りは、打開策は見つ
からないだろう。
現実を看れば、若者は禁欲的な生活にならざるを得ない。
「自分はああなりたくない」という人たち、つまり下流老人が身近に増
えるほど、自分の保身を考えて行動するのはある種自然な結末と言える。
下流老人の問題は、日本経済の発展を阻害する要因にもなり得るのだ。
<悪影響Ⅳ 少子化を加速させる>
下流老人の問題は、間接的に少子化を加速する一因にもなっている。
現代において、子どもをつくって家族を持つことは、もはや「リスクで
ある」という考え方さえある。
たとえば子どもを産んだら、大学卒業まで育てきるのに一人当たり1000
~2500万円程度はかかると言われている。
(略)
非常にドライに考えれば、その分だけ自分の老後の資産が減ることになる。
1000万円あれば、自分が十数年は、下流に至らずに長生きできるとも言
えるわけだ。
そして、子どもに老後の面倒をみてもらうことは、おおよそ困難と言える。
つまり「コスパが悪い」のである。
このような前提で出産や子育てを看れば、出産しないという”合理的選択”
を積極的にとる若者が増えても否定できないだろう。
すでに少なからぬ若者が、結婚や子どもをあきらめていることを考える
と、日本の少子化問題は、いよいよ深刻であり、解決策がないように見え
てしまう。
海外の先進諸国では、若者支援にも積極的に手を入れている。
たとえばフランス等では、若者に低家賃の住宅支援や家賃補助制度を導入
し、合計特殊出生率を引き上げる政策が重要施策として行われてきた。
これが一定の効果をあげていて、少子化に歯止めをかける原動力になって
いる。
一方、日本にはこのような少子化対策がなく、下流老人の問題や老後の
生活不安がシビアに若者を直撃している。
今のように出産や育児に対する負担を個人の努力にほぼ丸投げしている
状態では、若者が老後のために子どもを産まないという発想に陥ったとし
ても、何ら不思議はないのである。
上記の政策で、フランスの合計特殊出生率が2.1にまで回復したことは
よく取り上げられていますね。
安倍内閣は、1.8を目標にして一億総活躍政策として、待機児童対策から
アプローチしようとしていますが・・・。
若者の将来に対する不安の要素・要因は、下流老人問題に特定されるわけ
ではなく、複合的なものと考えます。
出産・育児・教育コスト、それ自体が負担でもあり、受給年齢が引き上げ
られ、自分たちが将来手にすることができる年金への不安が募る一方、毎年
必ず引き上げられていく社会保険料負担もあります。
そう考えると、確かに社会構造、社会政策上の根本的な問題と断言できま
す。
若者への支援制度を財政出動で政策化する必要性があることはもう議論の
余地なく、はっきりしていると思います。
なのですが、そうした財政負担による国家財政赤字の拡大は、そのツケを
将来にもたらすことで、さらなる不安を増幅する。
そういう矛盾も引き起こすことに・・・。
そうした不安の連鎖を食い止めるための抜本的な改革が必要なことも分か
っているのですが、結局、特に既得権者は保身に回り、変化・改革は起こら
ない・・・。
問題提起で終わらせない方策。
それは、将来に不安を持つ若者や女性が、変革の意思決定を行い、政策・
施策を実現していくために、政治に関心を持ち、自治体の首長や議会に議員
を送り込むことが、実はもっとも近道ではないのか・・・。
最近、そう考えることが多くなりました。
保育・待機児童の問題から女性の政治への参画を提起したブログ
『「子育て」という政治』シリーズ。こちらです。
次回からは、第3章「誰もがなり得る下流老人」に移り、提示された
下流老人化するパターンを見ることにします。
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<本書の構成>
第1章 下流老人とは何か
第2章 下流老人の現実
第3章 誰もがなり得る下流老人
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人
第6章 自分でできる自己防衛策
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
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