人格形成に影響を及ぼす、子ども期の母親との関係:『母という病』から(4)

母という病(岡田尊司氏著・2014/1/8刊)を紹介しながら、家族・
親子・夫婦などを考えるシリーズを始めています。


第1回:世代を継承する「母」という女性への感謝と願いから
第2回:子と母の関係を推し測ることができる性格・言動
第3回:「母という病」と「子という病」、両面を認識したい

今回は、第4回です。

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 序章 母親という十字架に苦しんでいる人へ(4)
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親子関係に留まらない影響>

母という病は、単に親子関係の問題ではない。
それが重要なのは、母親との関係がしっくりいかないということが、決して、
母親との関係だけに留まらず、人生全体を左右する問題だからだ。
なぜなら、母との絆は、単に心理的なものではなく、生理的、身体的なもの
でもあるからだ。
母という病は絆の病であり、心理的のみならず、生理的、身体的な病でもあ
るからだ。


母親との関係は、あなたが生まれたときから、いや生まれる前、一個の受精
卵として誕生したときから始まっている。
あなたが母親のお腹に宿っているとき、臍帯という絆によって文字通り結ば
れていた、
その証拠に、あなたのお腹に残っているのがお臍だ。
生まれた瞬間から、抱っこされ、乳をもらい、世話をされて育った。
それは、心理的な関係を超えた、もっと深いレベルのかかわりであり、それ
なくしては、あなたは生き残ることはなかった。

まがりなりにも、ここにこうしているのは、手をかけてくれる人がいたから
だ。
発展途上のあなたの脳や体にとって、母親とともにあった密度の濃い最初の
時間は、まさにあなたというものを形づくる特別な時間だった。

その幼い日々が満ち足りた、安心できるものだったか、そうでなかったか、
それを一番反映しているのが、今の母親との関係なのだ。
あなたが母親からよく世話をされ、愛情を注がれて育っていれば、母親との
関係は安定したものとなりやすい。

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だが、不幸にして、母親が他のことに気を取られたり、さまざまな事情で幼
いあなたに、気持ちや手をかけることができなかったりすると、その関係は
不安定なものとなりやすい。

そして、その特別な時間が、あなたの体だけでなく、脳や心を形づくるかえ
がえのない時間であるがゆえに、その影響は、あなたの対人関係のもち方や
ストレスへの敏感さ、子どもや異性の愛し方、精神的健康のみならず、身体
的健康や寿命、老化の速度にまで影響を及ぼす。

神経線維の走行や受容体の数といった脳の分子レベルの構造までが、その時
間を、母親といつも一緒に過ごすことができたか、よく世話をしてもらえた
かによって影響を受ける。
いつも一緒にいて、いつも撫でられたり、世話をされたりして育った子ども
は、いつも自分を愛してくれる存在がいて守られているという安心感を手に
入れる。
それは、心理的のみならず、生理的な体質とも結びついていて、母親との絆
が安定している人では、ストレスにも強く、うつにもなりにくい。

だが、そんな幸運な人ばかりではない。
生まれて間もない時期に、母親から短期間離されるだけでも、脳の構造に違
いが生まれる。

ましてや、長期間そばにいなかったり、母親が何かの事情で、抱っこや世話
をあまりしなかったりすれば、その影響ははかりしれないほど大きい。
その子は、一生、不安におびえ、人といることになじめず、ストレスに敏感
で、自信がもてないなどの生きづらさを引きずることになる。
おまけに、母親に幼い頃によく世話をされなかった人では、自分が親になっ
て子どもの世話をすることがうまくできないということが起きやすい。

母という病は、その人の存在の根底にかかわり、人生を多くく変えてしまう
ほどの影響を、いつのまにか及ぼしてしまう。

だからこそ、親にこだわり続ける。
その人は本能的に不足したものを感じ、それを修復する必要を感じているか
らこそ、求めずにはいられないのだ。
求めるたびに、傷ついてしまうとわかっていても、そうせずにはいられない。
闇雲にのたうちまわりながらも、それを何とか克服しようとするもがきが、
親へのこだわりなのだ。
親へのこだわりは、母という病を治したいという無意識の願望の表れなのだ。
それは、苦しみでもあるが、チャンスでもある。
求めている限り、そこには克服のチャンスがある。

本書は母という病に向き合い、その人の身に何が起きるのか理解し、そこか
ら回復するための手がかりを提供するものだ。

悩み縦
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家族が生活していくためには、共働きが当たり前のこととされ、仕事と
子育て、ときには、保育も介護も、と要求される母という女性にとって
大変なストレス、負荷がかかる時代、社会です。

それらのとの折り合いを、夫や親とつけながら、母としての役割を果た
さねばならない女性。

そこでは、自身の子ども時代における母や父との関係、その体験などは
あまり語られことも、その影響などを考慮すべきことなども、振り返る
こと、配慮すべきこととして取り上げられることはほとんどありません。

過去のそうした親子関係での病を抱えることになった経験、トラウマは
ほとんどの人にとって何かしらあるのではないでしょうか。
もちろん、病的な症状ではなく、プラスの性格形成に及ぼす経験を、幸
い積み重ねることができた人も多いかと思います。

あまり真剣に、重く過去の母親・父親との関係について考えることもない
のでは・・・、そんな思いもありますが、無意識のうちに現れる言動に
そうした影響があるとすれば、なんとかそれを乗り超えることができない
か・・・。

そして、そうした経験を活かし、自らが母親・父親となった時に、同じ
ようなマイナスの影響を及ぼす行動をとることのないように、自覚し、
自身をコントロールできるようにしたい・・・。
ムリなく、自然に・・・。

そう思いつつ、本論に入っていくことにしたいと思います。
次回から、「第1章「母という病」に苦しむ人たち」に入ります。

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子どもを宿し、子どもを産むことができる唯一の性である女性が母となる。
そこから、子というひとりの人間の人生が始まります。
種の起源は卵子と精子、双方にありますが、ひとりの人間の生の起源は、
女性の出産行為にあります。

その女性は母となります。
男性は、関与不能です。
生まれてきた子どもに、父の存在は絶対的なものではありません。
父であろう、父かもしれない、父として認めよう・・・。
そんな程度、かも・・・。
母としての新しい人生が始まります。

世のすべてのお母さんの幸せと、
かけがえのないすべての子たちの健やかな成長を願って・・・。

子ども眼鏡
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-『母という病』構成-
序章  母親という十字架に苦しんでいる人へ
第1章 「母という病」に苦しむ人たち
第2章 生きづらさの根っこには
第3章 残された傷跡
第4章 不安定な母親に振り回されて 
第5章 自分しか愛せない母親とその人形たち
第6章 生真面目な母親の落とし穴
第7章 「母という病」を克服する

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-<岡田尊司氏・プロフィール>-
1960年生まれ。
精神科医、作家。医学博士。
東京大学哲学科中退、京都大学医学部卒。同大学院医学研究科修了。
長年、京都医療少年院に勤務した後、岡田クリニック開業。同院長。
パーソナリティ障害、発達障害治療の最前線に立ち、臨床医として
人々の心の問題に向かい合っている。
主な著書:『パーソナリティ障害』『悲しみの子どもたち』
『脳内汚染』『アスペルガー症候群』『発達障害と呼ばないで』
『愛着障害』『回避性愛着障害』など。

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