だれもがなり得る、介護が必要な高齢者、下流化の現実:『下流老人』の今と明日(9)
下流老人とは、
「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」
ベストセラー『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』
(藤田孝典氏著・朝日新書・2015/6/30刊)より。
NPO法人ほっとプラス を設立・運営する若い世代の同氏が描き、
社会に警鐘をならした高齢者の貧困問題の書を参考に引用させて
頂きながら考える、<『下流老人』の今と明日>シリーズ。
第1章の後、第3章「誰もがなり得る下流老人」に移っています。
第1回:高齢期の長期化と病気・介護・事故による下流化リスクの高まり
に続いて、第2回です。
【第3章 誰もがなり得る下流老人】
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【現状編】(2)
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<パターン2 高齢者介護施設に入居できない>
2つ目は、高齢者介護施設に入りたくても入れないという問題だ。
家族や親族を頼れない高齢者にとって介護施設、いわゆる「老人ホーム」は、
最後の拠り所になるべき場所と言える。
ところが制度的、経済的な理由から、要介護度が高く、明らかに自立生活が
困難と思える高齢者であっても、入居できないケースが増えつつある。
そもそも、一口に老人ホームといっても、いくつかの種類に分けられる。
最も一般的なものが「特別養護老人ホーム」(以下「特養」)だ。
社会福祉法人などが運営している施設で、要介護高齢者が入所し、日常生活を
介護職員のケアを受けながら暮らすことができる場所である。
基本的に65歳以上で、要介護3以上の認定を受けた自立生活が困難な高齢者な
ら、誰でも利用可能だ。
40歳以上になれば、原則、すべての人々が介護保険料を支払うため、介護保険
制度で利用できる。
ただし、入所までに3~5年待ちということはザラで、施設によっては10~15
年待ちというケースも珍しくない。
2015年3月に発表された厚労省の資料では、特養への入所申し込みしている人
々は約54万人おり、そのうち在宅で暮らしている要介護高齢者は26万人もいる。
家族の介護に頼らなければ生活ができない高齢者の姿が浮かび上がるとともに、
施設の数が圧倒的に不足している状況が見てとれる。
また、低所得であったり、身寄りがなくて保護が必要な高齢者が入所できる
「養護老人ホーム」もある。
こちらは、原則として、介護を必要とせず、身の回りのことが自分自身ででき
る高齢者を対象としている。
この施設は他の施設と違い、介護保険制度で利用できるものではない。
「措置制度」といい、保護が必要な高齢者がいた場合、福祉事務所の判断で利
用されることができる。
そのため、施設利用の際には養護老人ホームではなく、役所の高齢介護を担当
する福祉事務所に問い合わせる必要がある。
問題は入所希望者に対して、こちらも床数が圧倒的に不足しているということ。
貧困に苦しむ高齢者は増え続けているが、養護老人ホームもその受け皿として
は十分に整備されていない。
--すさまじい老後格差--
そのため自立生活が困難になってから入ろうと思っても、受け入れてくれる施
設がないという状況も十分にあり得る。
またこれからの施設は、2人部屋、3人部屋などの相部屋が基本で、食事や就
寝時間なども一律に決まっているため、自宅と同じように自由気ままな生活と
いうわけにもいかない。
そこで普通の暮らし、自宅に近いかたちで支援を受けながら老後を過ごしたい
のであれば、民間の会社が運営する「有料老人ホーム」を検討する必要がある。
しかし、十分に設備の整った有料老人ホームは、利用料が非常に高額な場合が
多く、入居金だけで500万円から1000万円を預ける必要がある。
そのほか、入居金とは別に1カ月当たり20万~30万円の「利用料」がかかる施
設もある。
このパターン2で最も深刻になるのが、「意識ははっきりしているものの、身
体的あるいは経済的な問題により自立生活が困難な高齢者」である。
養護老人ホームは、空きがなくて入れない。
一方で、ホテル並みに施設が充実した有料老人ホームは、高額でとても手が出
ない。
しかし障害や持病などで、一人で暮らしていけない。
そんな高齢者が最終的に流れ着くのが、無届けの有料老人ホームなど、グレー
ゾーンで利益をむさぼる介護施設だ。
そのような施設では、プロの介護福祉士のサービスが受けられなかったり、必
要なのに病院を受診させてもらえなかったりするばかりか、そもそも介護を行
ううえで最低限必要な設備や人員が整っていなかったりする。
そのため「寝かせきりアパート」や「寝かせきりホーム」と呼ばれることもあ
る。
このような施設が横行する背景には、「老後格差の拡大」が影響している。
終身雇用、年功序列が崩壊しつつある今、この格差は今後ますます開いていく
だろう。
この項、続きます。
特養と文中にある有料老人ホームの中間的な施設形態として、サービス付き高齢
者(向け)住宅(サ高住)が位置付けられるかもしれません。
民間企業が行っているので、その契約内容などは幅がありますが、部屋を賃貸す
る形なので、入居時の負担は、さほどではなく、まだ利用しやすい施設です。
(問題のある施設・事業所もありますが・・・)
月間で必要な費用は、介護保険を利用して受ける介護サービスへの負担額を含め、
20万~30万程度と、やはり経済的にある程度のゆとりがないと入居できません、
ただ、そこまでの負担を必要としない事業運営をしようという事業者・施設も
多少はあり、今後、増えて欲しいものと思っています。
なんとか下流高齢者に陥ることなく、こうした比較的安心な施設で、厚生年金受
給レベルで暮らしていけるよう、またその備えができたら、と思うのですが・・・。
しかし、本書で対象とする高齢者は、その範疇には入らない人々・・・。
次回も
<パターン2 高齢者介護施設に入居できない>②
-金がなければまともな介護も受けられない- でその続きを見ます。
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<本書の構成>
第1章 下流老人とは何か
第2章 下流老人の現実
第3章 誰もがなり得る下流老人
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人
第6章 自分でできる自己防衛策
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
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「第1章 下流老人とは何か」
第1回:下流老人とは?その定義と問題の視点
第2回:下流老人に多い相対的貧困者
第3回:高齢期の生活維持のための貯蓄がない現実
第4回:一人暮らし高齢者の増加と社会的孤立化
第5回:親子両世代、共倒れのリスク
第6回:尊敬される高齢者とは?
第7回:若者が抱く老後不安の社会構造を変革する道は?
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【藤田孝典氏プロフィール】
1982年生まれ。NPO法人ほととプラス代表理事。
聖学院大学人間福祉学部客員教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。
ブラック企業対策プロジェクト共同代表。
厚生労働省社会福祉審議会特別部会委員。
ソーシャルワーカーとして現場で活動する一方、生活保護や生活
困窮者支援のあり方に関する提言を行う。
著書:『ひとりも殺させない』他