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公・民の役割と機能の再構築が必要な介護制度・政策と介護事業モデル:『下流老人』の今と明日(10)

下流老人とは、
「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」
ベストセラー『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃
藤田孝典氏著・朝日新書・2015/6/30刊)より。

NPO法人ほっとプラス を設立・運営する若い世代の同氏が描き、
社会に警鐘をならした高齢者の貧困問題の書を参考に引用させて
頂きながら考える、<『下流老人』の今と明日>シリーズ。

第1章の後、第3章「誰もがなり得る下流老人」に移っています。

第1回:高齢期の長期化と病気・介護・事故による下流化リスクの高まり
第2回:だれもがなり得る、介護が必要な高齢者、下流化の現実
に続いて、第3回です。

【第3章 誰もがなり得る下流老人】

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 【現状編】(3)
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<パターン2 高齢者介護施設に入居できない>②

前回、だれもがなり得る、介護が必要な高齢者、下流化の現実
の続きです。

--金がなければまともな介護も受けられない--

さらに深刻なのは、現役時代の収入によって格差が否応なく”固定”されてし
まうことだ。
高齢期に収入が増えることはほぼあり得ないし、そもそも、そんなに十分な
お金があるひとたちばかりではない。
にもかかわらず、有料老人ホームが明らかに「富裕層向けの施設」に偏って
いる現状は、極めて問題である。

会社員時代の年収が1000万円以上ある人など、数%しかいない
そんな人しか入れない。
普通の年金水準では手も足も出ない施設が増えているのは、社会福祉の理念
に照らしてみれば、明らかに異常事態といえる。

一方で、これらの有料老人ホームが批判されるどころか、年々需要が高まり
つつあるのはなぜか。
それは、介護保険制度の機能不全の問題が極めて大きい。
現在の状況は、公と民が複雑に絡み合うことで、資本主義の原理が歪んだ形
で発露した結果とも言える。

本来は、生存に最低限必要な介護は、公的機関が責任を持って提供してきた
分野だった。
それが2000年以降、介護保険制度が導入され、措置から契約へ変わり、自
に介護事業者を高齢者が選べるメリットばかりが強調されたことで、民間
業や営利事業者も介護事業を行うようになった。
「介護の社会化」という掛け声とともに、多くの事業者が介護を収益の対象
として見るようになったとも言える。

民間企業も社会福祉法人も、同じ敷地内にあるとしたら、明らかに儲かる有
料老人ホームを運営したがるのは当然だろう。
有料老人ホームは、一部屋あたりの単価が養護老人ホームや他の介護施設に
比べて、べらぼうに高い。
同じ敷地(床数)でも、片方が年間1千万円、もう片方が1億円の収益にな
るのであれば、より多く稼げる施設を選ぶのは市場原理だ。

一方で、特別養護老人ホームや養護老人ホームなどは、公的な性質が強く、
施設に入る報酬が厳密に決められており、大きな利益は見込めない。
そもそも介護保険の財源不足で、運営費や職員の給与水準が低いという問題
もある。

だから公的な養護老人ホームは誰も運営したがらないし、そのせいで床数が
足りず、需要に応えられない事態が発生している。
有料老人ホームの高額化と特別養護老人ホーム、養護老人ホームの不足など
の問題は、別々ではなく、同じ高齢者の貧困や不平等の問題として、リンク
して考えなければならない

要するに「老後は介護が必要になったら老人ホームに入居して余生を過ごす」
という考えが、もはや楽観的に思えてしまうほど状況は深刻化している。
安全とはいえない一人暮らしの自宅で、十分ではない介護を受けながら、余
生を過ごさざるを得ない高齢者が今でも大勢いることが、それを証明してい
るだろう。

9
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資本主義における自由競争の原理が働いて、価格・費用・料金が下がるのは
どんな業種・商品・サービスにおいて必ず起きること、と保証されているわ
けではありません。

よくあるのは、業界内で、価格カルテル化され、業界内の利益が優先され、
誘導化されること。

介護事業においては、介護給付が介護保険で規定されるため、介護に関する
その他の領域、家賃や管理費、食費、介護保険外のサービスなどで、収益を
上げることが重要な課題となります。

その部分においては自由競争ですが、これが、地代や建設コストなどをベー
スに決定されれば、自ずと高騰化し、高止まりになります。
結局、老後の経済格差、裕福度・貧困度がそこに反映され、介護格差が固定
化します。

措置から契約の転換ではなく、その両方の性質をどのようにバランスを取り、
公的な社会福祉理念に基づく、合理的な利用基準を整備し、有効に適用させ
ていくか・・・。

その議論を踏まえて、適切な制度・手法を設計・制定すべきであった・・・。
もちろん、一回で理想的なモノができるはずはなく、試行錯誤しながら、望
ましいモノに改善していけばよいわけです。
その道筋が、着実に描いていくことができればいいのです・・・。
が、現実は、逆方向に働いている・・・。

安心・安定が、不安・不安定に、変化してきている。
中流が消滅し、下流が拡大し、よどみと滞留・滞積化が進行している・・・。

介護という先行きが見通せない不安に対して、介護事業が成長産業であると
する企業論理とのギャップを、いかに埋め、望ましい社会的インフラとして
整備していくか・・・。
次の介護保険改正時期を迎えるまでに、理念・政策・規程などを再構築すべ
きなのですが・・・。

kai1

次回
<パターン3 子どもがワーキングプアや引きこもりで親に寄りかかる>
に続きます。

 

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<本書の構成>
第1章 下流老人とは何か
第2章 下流老人の現実
第3章 誰もがなり得る下流老人
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人
第6章 自分でできる自己防衛策
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
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「第1章 下流老人とは何か」
第1回:下流老人とは?その定義と問題の視点
第2
回:下流老人に多い相対的貧困者
第3回:高齢期の生活維持のための貯蓄がない現実
第4回:一人暮らし高齢者の増加と社会的孤立化
第5回:親子両世代、共倒れのリスク
第6回:尊敬される高齢者とは?
第7回:若者が抱く老後不安の社会構造を変革する道は?

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【藤田孝典氏プロフィール】
1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。
聖学院大学人間福祉学部客員教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。
ブラック企業対策プロジェクト共同代表。
厚生労働省社会福祉審議会特別部会委員。
ソーシャルワーカーとして現場で活動する一方、生活保護や生活
困窮者支援のあり方に関する提言を行う。
著書:『ひとりも殺させない』他

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