増加する中高齢未婚者が、独居老人下流化予備軍に:『下流老人』の今と明日(22)
下流老人とは、
「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」
ベストセラー『下流老人』(藤田孝典氏著・朝日新書・2015/6/30刊)より。
NPO法人ほっとプラス を設立・運営する若い世代の同氏が描き、
社会に警鐘をならした高齢者の貧困問題の書を参考に引用させて
頂きながら考える、<『下流老人』の今と明日>シリーズ。
第3章「誰もがなり得る下流老人」
第1回:高齢期の長期化と病気・介護・事故による下流化リスクの高まり
第2回:だれもがなり得る、介護が必要な高齢者、下流化の現実
第3回:公・民の役割と機能の再構築が必要な介護制度・政策と介護事業モデル
第4回:親子共倒れリスクを抱えた下流老人化社会は、一億総モラトリアム社会の断面
第5回:団塊世代とシングル団塊ジュニアとの実家同居が招く下流老人世帯化
第6回:増える熟年離婚。老後を考えると、結婚・夫婦を再考する必要が
第7回:中高齢男性は生活能力を今からでも身に付けよう!
第8回:夫婦関係のリセットで新しい役割分担・関係を作るべき高齢者夫婦
第9回:高齢者に不足する確認・相談先を判断し行動できる社会性。認知症と特殊詐欺被害問題から
第10回:認知症高齢者が被害に合いやすい特殊詐欺。これからの高齢者のあり方
第11回:年金だけで暮らせる老後は夢。自衛を考えるべき現実
第12回:高齢者の下流老人化に留まらない、格差社会が招く全世代貧困化
第13回:貯蓄・年金収入の目減り、健康不安・介護不安。長寿化が招く下流化リスクの連鎖
第14回:全世代共通の非正規雇用者の下流化リスク
今回は、第15回、第3章の最終節です。
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第3章 誰もがなり得る下流老人
-「普通」から「下流」への典型パターン-:近い未来編(5)
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<非正規は正規の3分の1しかもらえない!?>②
「富裕層がさらに豊かになれば、貧困層にも富が自然としたたり落ちる」と
言われる、いわゆるトリクルダウン政策も、貧困問題の改善に寄与していない。
今後も企業が得た利益は、内部留保の拡充になるだけであろう。
しかし、実際には、企業は人件費に利益を配分できるはずだ。
だからこそ、労働条件や賃金の向上が一向に図られないことについて、そろ
そろ正規雇用や非正規雇用など雇用条件に関係なく、一枚岩となって、企業や
経営陣に改善を要求しなければならないだろう。
退職後、高齢者になったときに「さて、これからどうしていくか」と考えて
もすでに遅い。
今のうちから声を上げ、少しでもより良い環境に変えていくことが急務であ
る。
<独居老人予備軍を増やす、未婚率の増加>
最後につけ加えておけば、若者世代の未婚率の増加も、将来の下流化リスク
を高める。
国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2014)」によれば、1965
年の「生涯未婚率」は男性が1.50%、女性が2.53%と極めて低かった。
ところが、2010年には、男性が20.14%、女性が10.61%にまで上がっている。
もはや男性は5人に1人、女性は10人に1人が結婚をしない時代になっている。
生涯未婚率の高まりは、経済的な理由から、結婚しない(できない)人々が
増えていることも表わしている。
「もう俺(わたし)には結婚は無理だ」と、家族を持つことをあきらめてい
る若者も少なくない。
また結婚しても、長時間勤務で低賃金、あるいは将来が不安となれば、喧嘩
やストレスが絶えず、離婚してしまうケースも増えるだろう。
【現状編】で、認知症高齢者の孤立がいかに危険かを述べたが、家族をつく
らないということは、老後に社会的孤立のリスクが高まるということでもある。
そして、そもそも生涯一人で暮らす人々がここまで増える社会をわれわれは
想定していない。
社会福祉や社会保障は、世帯単位であらゆる制度が構築されてきたし、家族
がいる前提ではじめて機能する。
独居老人となったときに、これまでの制度でケアしきれるのか、はなはだ疑
問である。
※この章、終わります。
「一枚岩となって、企業や経営陣に改善を要求」するのは、誰か?
「今のうちから声を上げ」るのは誰なのか?
具体的、現実的に、筆者は書いていませんし、指名していません。
また、
「そもそも生涯一人で暮らす人々がここまで増える社会をわれわれは想定し
ていない。社会福祉や社会保障は、世帯単位であらゆる制度が構築されてきた
し、家族がいる前提ではじめて機能する。」
と断定するとき、従来通り家族形成することを前提とした社会を目指すべきか、
未婚や単身での生活をも、選択肢とし、是とした社会システムを新たに構築す
べきか、についても、断定していません。
では、一体どうするのか?
その解やヒント、提案は、「第6章自分でできる防衛策」と「第7章一億
総老後崩壊を防ぐために」で示されるのでしょう。
(しかしその前に、「第4章」「第5章」も見ていきたいと思います。)
「人口統計資料集」で、未婚率について、以下の性別・年齢別の年次比較が
ありました。
注目すべきは、2010年の年齢別の未婚率グラフです。
男性の40歳の未婚率30%、女性の40歳は20%と非常に高いのが目につきます。
これを見れば、<独居老人下流化予備軍>がこれから急速に増加することが予
想されます。
現実的に、65歳以上の未婚高齢者比率もそれなりに読み取れ、これに配偶者と
死別した高齢者も加えると、独居老人が今後急速に増加することも推し測ること
ができます。
この近い未来編は、世代を超えての下流老人化のリスクが、これから続くこと
を示しました。
このブログサイト<世代通信.net>の視点と重なります。
厳しい暮らしが想定される将来への不安・リスク。
その軽減、抑制、防止に取り組みべき高齢者世代自身がそれらを抱えている・・・。
次章、第4章「「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日」で筆者と共に
根源的な課題を引き続き考えていきます。
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このブログで、これまで「結婚、してみませんか」と題して、私の過去の
Ameblo投稿ブログを再掲して、メモを追加したものがあります。
お時間がありましたら、チェックしてみてください。
⇒ ◆「結婚、してみませんか」シリーズ
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<本書の構成>
第1章 下流老人とは何か
第2章 下流老人の現実
第3章 誰もがなり得る下流老人
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人
第6章 自分でできる自己防衛策
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために
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「第1章 下流老人とは何か」
第1回:下流老人とは?その定義と問題の視点
第2回:下流老人に多い相対的貧困者
第3回:高齢期の生活維持のための貯蓄がない現実
第4回:一人暮らし高齢者の増加と社会的孤立化
第5回:親子両世代、共倒れのリスク
第6回:尊敬される高齢者とは?
第7回:若者が抱く老後不安の社会構造を変革する道は?
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【藤田孝典氏プロフィール】
1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。
聖学院大学人間福祉学部客員教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。
ブラック企業対策プロジェクト共同代表。
厚生労働省社会福祉審議会特別部会委員。
ソーシャルワーカーとして現場で活動する一方、生活保護や生活
困窮者支援のあり方に関する提言を行う。
著書:『ひとりも殺させない』『貧困世代』他