保育園義務教育化は「未来への投資」。社会福祉の世代間格差も考える:『保育園 義務教育化』から(8)
人気の若手男性社会学者古市憲寿氏の子育て・保育論『保育園義務教育化』を
紹介しながら保育・子育て政策の転換と社会システムとしての構造改革を考え
るシリーズ。
【はじめに】
第1回:絶望の国の「お母さん」にしない、ならないために
第2回:待機すれば入園できるのか?お母さんを虐待する待機児童問題
第3回:「一人っ子政策」を進めているかのような日本の少子化対策の怪
第4回:少子化を克服したフランスの経済学者ピケティも不安視する日本の育児と少子化
第5回:子どもの数よりも猫と犬の数が多い現実
第6回:義務教育の早期化は世界的な潮流
第7回:共に教育を提供する保育所と幼稚園から導く、義務教育化保育園
今回は、第8回です。
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「お母さん」が「人間」だって気づいていますか?(8)
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<日本全体の「レベル」を上げる>
保育園義務教育化は、少子化対策にだけ意味があるのではない。
実は、日本全体にとって非常に重要な「未来への投資」という意味もある
のだ。そしてこの点の方が僕は大事だと思っている。
2章で詳しく見ていくように、実は子どもを教育するなら早ければ早いほ
うがいいということが明らかになっている。
乳幼児期の教育は、子どもの学習意欲を高め、結果的にその後の進学率や
平均所得を高めるという研究が多く発表されている。
乳幼児期の教育が大切というのは、きっと多くの人が直感的にも理解して
いることだと思う。事実、街にはたくさんの幼児教室があるし、書店に行け
ば膨大な数の幼児教育に関する書籍や雑誌が並んでいる。
そこでは知育玩具が大事とか、平均台やボール遊びをしなさいとか、鉄分
や不飽和脂肪酸を欠かしてはいけないとか、無数の「0歳からすべきこと」
がささやかれる。
全国の親たちは、子どもを賢く、そして健康にするために必死だ。
確かに自分の子どもの「レベル」を上げることも大事ではある。
だけど、せっかくなら自分の子どもだけではなく、この国に住むすべての
人の「レベル」が上がったほうがいいと思わないだろうか。
そうすれば、自分の子どもが付き合う友人や仲間の「レベル」も上がり、
結果的に自分の子どものレベルも上がりやすくなる。
貧困と犯罪には関係があることがわかっている。
もちろん、貧しい環境で育った人が全員犯罪者になるわけではない。
だけど、子どものころにきちんとした教育を受けられずに罪を犯してしま
う人も多い。
乳幼児期から全国民に対して、一定以上の教育をすることは、この国を豊
かで安全にすることにもつながるのだ。
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<子どもを安心して育てられる国へ>
僕は今年(2015年)、30歳になった。今のところ結婚をする予定も、子ど
もを持つ予定もない。その意味でこの本は育児をする「当事者」が書いたも
のではない。
だけど、まだ結婚や子どもを持つことに踏み切れない多くの人間という意
味での「当事者」ではあるし、保育や少子化は何も子どもを持っている人だ
けの問題ではない。
子どもが産まれない国は、いつか滅びる。
今、日本は本当なら第三次ベビーブームが起こっているはずの時期だった、
日本で団塊の世代の次に人口の多い団塊ジュニア(SMAP世代)が、ちょう
ど出産適齢期を迎えていたからだ。
しかし、依然少子化は解決しないし、このままでは出産できる年齢の女性
は減っていく一方である。
現在の政権は少子化に対して「第三子支援」や「3年間赤ちゃん抱っこし
放題」などの提案をしているが、そんなのんびりしたことを言っている場合
ではない。
結婚するのか、しないのか。
子どもを持つのか、持たないのか。
それは個人の自由だ。だけど、今よりもう少し、「子どもを持ちたい」と
いう人の希望が叶いやすくなる社会になるといい。
この本は、「こんな社会になっていたら安心して子どもを産める」という
希望とともに書いた。
実際に子育てをしている人にも、「こんな考え方もあるんだ」とか「こう
なったらいいな」とか思ってもらえるような本になっていたら嬉しい。
※以上で「はじめに」を終わります。
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「未来への投資」。
良い言葉ですね。
比較してはいけませんが、高齢者「介護」に重点的に注がれている財政には
どうも「投資」という概念は著しく少ないように思われます。
となると、世代の両端に位置する世代間の社会福祉費用のかけ方の格差が、
やはり目に付きます。
これまでの功労に報いる方を重視するか、これから社会への貢献への期待の
方に費用をかけるか。
といいつつも、高齢者世代の功労・貢献という表現は表向きのことであるこ
とは、ご理解いただけるかと思います。
あるのは、感覚的に「年寄りはいたわるべきもの」「年寄りは尊敬すべきも
の」というそれらしい倫理観からと言えなくもない・・・。
もちろん、本来二者択一の問題でないのは承知しています。
しかし、よく課題になる世代間格差の問題となると、前期高齢者グループに
属し、後期高齢者予備軍である私であっても、将来への投資対象グループとそ
の親御さんグループに加担したい。
そう思います。
団塊世代ジュニアにあたる3人の息子たち夫婦とその子供たち、すなわち5人
の孫を思うたびに、この子どもたちの明日が、平和で安心して暮らせる、今より
少しでもいい社会でありますように、と思うのです。
ということで、「保育園義務教育化」に全面的に賛成!
古市子ども論、お母さん論、保育園義務教育論の本論を読み進めていきます。
次回から、「第1章「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない」
に入ります。
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このブログサイト<世代通信.net>のカテゴリーのひとつに
【保活・保育】カテゴリーがあります。
折々の関連する話題・ニュースなどを交え、保活や待機児童問題や施設・
保育士問題などを軸にして取り上げてきています。
そこで関係図書を紹介しながらのブログシリーズでまず手掛けたのが
『「子育て」という政治』。
昨年2015年10月に、『「子育て」という政治』からとして9回投稿。
次が『ルポ 保育崩壊』。
このブログシリーズは現在も継続中で、以下で通算21回目。
◆待機児童問題解決に必要な子育て・保育行政の改革:『ルポ 保育崩壊』<共働き時代の保育>から(8)
そして、第3弾の『保育園義務教育化』に入っています。