監獄の囚人と呼ばれる若者はどんな罪を犯したのか?:『貧困世代』から(3)

下流老人」「中流崩壊」「最貧困女子」「シングルマザーの貧困」。
貧困問題が、全世代に共通の問題とされる社会的状況にあります。

若者世代の貧困問題を『下流老人』筆者である藤田孝典氏が著した
貧困世代ー 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(2016/3/16刊)
本書を紹介しながら、若者世代の生き方・あり方を考えるシリーズを
始めました。

【はじめに】
第1回:貧困世代(プア・ジェネレーション)の定義と問題化の視点
第2回:社会責任・企業責任で片づける前に考えるべき、働くというコト

今回はこれに続き、第3回です。

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 はじめに(3):貧困世代はまるで監獄の囚人
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 社会的弱者であるにもかかわらず、貧困世代への救済策や支援策は極めて乏しい。
社会福祉に関して言えば、旧態依然として、高齢者、障害者、児童、母子家庭を
中心とした対応にとどまったままである。
非正規雇用やブラック企業の被害者、労働市場から排除された人々の受け皿など、
どこにも用意されていない。

 社会福祉の遅れは顕著であり、それが新たな社会問題を発生させている。
 社会福祉関係者はこれらの若者のつらさや厳しさに薄々気づいている。
 しかし、どのように関わればいいのか、いまだ手をこまねいている有り様だ。

 たとえば、うつ病を発症してブラック企業を辞めた若者。
 実家に引きこもり、なかなか次の就職先が見つからず、そのストレスを家族や身
近な親族にぶつけてしまう家庭内暴力事件にまで発展する。
 ニュース報道によれば、引きこもりの若者が両親を殺傷するという痛ましい事件
まで発生している。

 介護保険が必要で高齢者から申請があり、ケアマネジャーや行政職員が自宅に訪
問してみれば、若者が家族に寄りかかって生活せざるを得ない状況になっていると
いう事例は珍しくない。
 親の年金や資源がなければ暮らしていくことすらできない若者の増加を、私自身、
肌身で感じている。

 わたしが本書で問題にしたいのは、若者たちに対する社会一般的な眼差しが、高
度成長期のまま、まるで変っていないのではないだろうか? ということだ。

 「若い時の苦労は買ってでもしろ」「若い時に苦労しておけば後で楽になる」な
どという昔話のような訓示や励ましをよく聞かされる。
 かつては確かにそういう側面があったのだろう。
 賃金は上昇していくし、賞与もきちんと支給されたので、苦しいけれど頑張ろう
と思えたのかもしれない。
 引きこもって自宅で家族に暴力を振るってしまう若者など、どうしようもない一
部の怠惰なヤツだと理解されているかもしれない。

 しかし、現代の若者たちをそのような思考で理解して本当によいのだろうか?
 わたしたちには、現代日本の社会システムの中でもがき苦しむ若者たちが、あた
かも「監獄から出られない囚人たち」のように映ってしまう。
 気づかない間に、あるいは生まれた時からすでに「窮屈さ」を宿命づけられてい
る。その窮屈な状況を生み出している社会構造に翻弄されている姿が哀れにすら見
える。

 社会システムがいつの間にか彼らから自由を奪い、窮屈な監獄の中で「制限のつ
いた生き方」へと向かわせている。
しかもその監禁生活では、「監獄の誕生」(Mフーコー)で描かれたような訓練
や教育さえ満足に施されない。
不自由さにもがくそんな囚人たちに待ち受けるのは、「下流老人」生活である。

 何を大げさな、と思われるかもしれない。が、少なくとも彼らが置かれている環
境や状況を適切に把握し、どうしていけばよいのか、建設的な議論を始めていかね
ばならない時期を迎えている。

 そして議論する際には、貧困世代が置かれた現状の一部分を切り貼りして捉える
のではなく、なるべく総合的かつ複合的な観点から、理解していくことが求められ
ている。
 ゆえに本書では、雇用政策から社会学の視点にとどまらず、住宅や教育政策、社
会福祉など幅広い視点から、専門家にご協力いただき、従来の偏狭な若者論に対し
て、新しい問題提起をしていきたいと思う。

 何よりも重要なことは、すぐにでも若者たちを支援しなければ、彼らは将来「下
流老人」と化し、低年金・低所得状態の高齢者が爆発的に増加するということだ。
 果てしなく増える生活保護費などの社会保障費も今より問題視されたり、攻撃対
象になるかもしれない。
 もちろん社会保障費をまかなう現役世代の減少は顕著になり、社会内での相互の
支え合いのシステムが危機的な状況になるかもしれない。

 本書が貧困世代の置かれている状況を一部分でも代弁できて、必要な政策課題を
総合的に考察し、社会に発信する役割を担えたとしたら本望である。

貧困1

※次項に続きます。

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自由を奪われた「監獄の囚人」のような若者。
彼らは、どんな罪を犯して、監獄の囚人になったのか?

そういう視点、発想ではなく、被害者としての若者を囚人と形容しているのですが、
とするならば、社会に不適合という罪も多少は問われるのでしょうか。
それとも冤罪で囚われたのでしょうか。

ならば真の被告・被疑者は誰で、被害者は誰なのでしょうか。

どうやら、社会という見えそうで見えない魔力が、その不正義を引き起こし、無実
の若者を囚われの身としている、ということらしい・・・。

そこで、総合的・複合的な視点を持てば持つほど、それらを課題・問題にすればす
るほど、実は、責任の所在が分散、多様化し、解決することがいっそう困難になる。
現代の問題は、そうした共通点をもつことが特徴と言えるのではと思います。

で、結局どうすれば何とかなるのか・・・。

現状では、政治を変えるしかない。
私の現在の結論です。

そしてその結論が、現在のポピュリズム化した、真のリーダー不在の政治を鑑み
る時、これからの苦難の始まりを意味します。

藤田氏のような専門家も、大学という閉ざされた場から、研究者という名で提言
する学者も、みな政治のフィールドに集結し、フィールド・オブ・ドリーム、理想
社会の実現に取り組まねばならない。
あるいは、自ら政治の当事者にならないのなら、その政治家を育成するか、政党
を創造するスタッフとなるか、現状政治を変える唯一の方法である選挙の動向を決
定付けるスタッフ、フィクサーとして振る舞うか・・・。

こう無責任に表現している自分は、お読み頂く方々の多少なりともの共感、ある
いは異論・反論を得、その方々の何らかの政治に関わる現実的な行動に、微々たる
ものであってもつなげることができる者でありうれば・・・。
ただその一存でのブログ生活であります。

alo9

※次回から、貧困状態に至った、あるいは現状貧困状態にある若者の事例を紹介する
「第1章 社会から傷付けられている若者=弱者(じゃくしゃ)」ではなく、
「第2章 大人が貧困をわからない悲劇」に入ることにします。

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【『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』構成】
はじめに
第1章 社会から傷付けられている若者=弱者(じゃくしゃ)
第2章 大人が貧困をわからない悲劇
第3章 学べない悲劇=ブラックバイトと奨学金問題
第4章 住めない悲劇---貧困世代の抱える住宅問題
第5章 社会構造を変えなければ、貧困世代は決して救われない
おわりに

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