ブラック企業の就労実態事例:『貧困世代』から(8)

若者世代の貧困問題を『下流老人』筆者である藤田孝典氏が著した
貧困世代ー 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(2016/3/16刊)。
本書を紹介しながら、若者世代の生き方・あり方を考えるシリーズです。

【はじめに】
第1回:貧困世代(プア・ジェネレーション)の定義と問題化の視点
第2回:社会責任・企業責任で片づける前に考えるべき、働くというコト
第3回:監獄の囚人と呼ばれる若者はどんな罪を犯したのか?
【第1章 社会から傷つけられている若者=弱者】
第4回:自分を守り、生かしていく最低限のセイフティ・ガードを持つ
第5回:居場所がない家庭と学校からのシナリオ
第6回:自立準備のための生活保護受給の方を応援する社会に
第7回:格差・貧困問題への認識がデフレ化する国と行政の無感覚

今回は、第8回です。
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第1章 社会から傷つけられている若者=弱者(じゃくしゃ)(5)
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【事例3】ブラック企業でうつ病を患った富田さん(27歳男性)①

 富田さん(仮名)は、ふたり兄弟。兄は高校卒業後、名古屋近くで働き始めたが、数年
会っていないため、今は何をしているのかわからないそうだ。
富田さんは、高校卒業後に実家の山梨県から上京し、都内の居酒屋で勤務を始めた。
食べたり、料理をすることが幼少期から大好きで、将来は調理に関わる仕事に就こうと
決めていたそうだ。両親はすでに退職していて、農業と年金で細々と暮らしている。

 富田さんは、上京後、社宅に入りながら、先輩や上司のもとで、居酒屋メニューを調理
して提供する厨房で働き始める。
 この会社は都内に数店舗を持っていて、富田さんは約3年ごとに和食居酒屋、イタリア
料理居酒屋、多国籍料理店などと職場を変えながら働いてきたそうだ。

 「僕はどの店に配属されても、それなりに一生懸命働いてきました。仕込みが始まる昼
ごろから出勤して、翌日の朝方4時くらいまで働くんです。最初は大変でしたが、慣れて
くればどうにかなるものだし、上司に認められたくて頑張っていました。」

 客の多くは夕方からその居酒屋を訪れ始めるため、メインは夜間の営業であり、富田さ
んら従業員は朝方まで忙しく働き続ける。夜勤明けであるにもかかわらず、翌日の夜まで
の連続勤務もある。毎年年末などの繁忙期だと、1週間休日なしの勤務を命じられるとき
もあった。

 富田さんはだいたい毎日昼頃に出勤。そこから休憩なしで、仕事が終了するのは明け方
4時過ぎである。帰宅できるのは朝方5時過ぎで、毎日仮眠程度の睡眠しかとれずに、出
勤時間を迎える。翌日の下準備に時間がかかりそうな場合は、店に泊まり込むこともある
そうだ。

 「最少の人数・・・・・というか常に人手不足で店を回しているんです。僕は正社員で入り
ましたが、アルバイトの子はすぐに辞めちゃうので、負担は僕や数人の同僚に重くのしか
かってしまい、それに耐えられず、大抵は数年で退職していきます。続くわけがないと今
なら思いますが、当時は考える余裕なんてないですよ。毎日必死でした。生きることに・・・・・。

 少しでも弱音を吐くと、待遇が良くなるどころか、上司から『嫌なら辞めてもらっても
構わない』『仕事をしたいという代わりの奴はいくらでもいる』と言われていましたから、
辞められないんです。だって社宅にいるし、そもそもお金がないと生活できなくなっちゃ
うし」

 月給は、額面上28万円で固定されていた。つまり、何時間勤務しようが、残業代は決ま
た金額しか出ない仕組みである。そのため、一見給与はよさそうだが、労働時間には見
わない。

 出勤すれば大抵、1日17時間(残業9時間)勤務する。その労働時間のまま、年末など
の多い月では25日間勤務していた。
 17時間×25日=425時間。残業代は出ない。時給に換算すると658円しかなく、東京都の
最低賃金888円(相談当時。2015年10月からは907円)を大きく下回る計算になる。

アルバイト
※次回に続きます。

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「昔なら・・・」なんて比較しちゃいけないんですね。

ブラック企業問題。
上場している大手飲食チェーン企業で、一気に顕在化した問題。
上場企業だけに目が行きがちですが、中小企業では、そうした事例は、表立ってはいま
せんが、相当あると推察されます。

労働基準監督署に、証拠書類を揃えて訴える、というような社会性を、現代の若い世代
は残念ながらもっていない。
特に、会社保有の社宅や寮住まいの場合は、もうどうしようもない状況になってしまう。
辞めれば行き場所・寝場所に困るのですから・・・。

社宅や寮完備という企業への就職は、違法就労を強いられるリスクがあると疑ってかか
ることが、特に労働集約型の業種の場合、必要かもしれません。
その可能性がある業種・職種などは、ある程度予想がつくのですが、とにかく仕事が欲
しい、稼がなければいけない、と切羽詰まった状況の場合は、考える暇、判断する余裕
がない・・・。

こういう社会性を身につける教育を、中学・高校校レベルで必修化すべきなんですが・・・。

もちろん、社員の福利厚生を重視して、寮や社宅を提供し、安心して仕事と生活ができ
るよう運営している企業の方が多いことは当然です。
ごくごく一部の例外とご理解ください。

居酒屋3

※次回は、こうした過酷な労働環境において富田さんがどうなっていったか、
 <若者を早期に食いつぶす雇用環境> でみることにします。

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【『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』構成】
はじめに
第1章 社会から傷付けられている若者=弱者(じゃくしゃ)
第2章 大人が貧困をわからない悲劇
第3章 学べない悲劇=ブラックバイトと奨学金問題
第4章 住めない悲劇---貧困世代の抱える住宅問題
第5章 社会構造を変えなければ、貧困世代は決して救われない
おわりに

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下流老人」「中流崩壊」「最貧困女子」「シングルマザーの貧困」。
全世代に共通の問題とされる貧困問題を取り上げた書の例。

 

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