標準お布施額は、公開・定着するか?:『0葬-あっさり死ぬ』から(9)
『0葬 ――あっさり死ぬ』。
(島田裕已氏著・2014/1/29刊。文庫版2016/1/20刊 )
何とも変わったタイトルの書。
このブログサイトのカテゴリーのひとつ、<終活>について、じっくり掘り下げて
考えてみるとすると、やはり、葬儀・葬式に行き着くと思います。
そこで『0葬』を参考にして、種々の観点から、自由に考えてみることにしました。
「はじめに」
第1回:究極の終活を考えてみます。ご存知ですか「0葬」
第2回:お盆の帰省とお墓参りの見慣れた景色の背景
第3回:葬送・お墓、生者と死者との関係。お盆に考えてみますか
「第1章 人を葬ることは相当に面倒である」
第4回:お盆、帰省、墓参りの文化の起源としての埋葬・葬儀
第5回:明治時代から見られた葬式無用論。夏目漱石も
第6回:孤独死や尊厳死。どう見るかで変わる意味
第7回:高齢者単独世帯・夫婦世帯の増加が葬儀からの解放を進める
第8回:イオンがネットで受注・斡旋する明朗会計葬儀とは
今回は、通算第9回です。
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第1章 人を葬ることは相当に面倒である(6)
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<時代は「家族葬で当たり前。直葬でもかまわない」という方向に>③
ちなみに、イオンでいう火葬式は、一般的には「直葬」と呼ばれ、こちらも増え
ている。
葬儀関係の情報サービス会社、鎌倉新書が2012年に全国200の葬儀社を対象に行
なった調査では、関東地方で直葬の割合が22.3%に達したという結果が出ていた、
近畿地方は9.1%と関東に比べるとまだ少ないが、関東では全体の4分の1近くが
一般的な葬儀を行わない直葬だということになる。
直葬などということばが生まれたのは、それほど昔ではない。せいぜいここ数年
のことである。ところがいったんそれが生まれると、急速に世の中に広まっていっ
た。家族葬ということばも同様である。
ただ、家族葬の場合は、いったい何をもって家族葬とするのか、一般の葬儀とは
どこで区別するのか、現状ではそのあたりの定義がひどく曖昧である。
前述のようにイオンは100名までの参列者の葬儀プランについても「家族葬セレ
クト」と呼んで家族葬に含めているが、果たしてそれが家族葬と呼べるのか、かな
り疑わしい。
それでもプラン名に家族葬の名称が用いられるのは、そのイメージに商品価値
があり、葬祭業者がそれを利用しているからである。
ちなみにイオンの葬儀では、最初、寺院に対するお布施についてもその目安を
示していた。それで、仏教界から反発が起こった。
「布施は本来自発的なものであり、額の目安を示すようなものではない」という
のである。
それは半分もっともな話であり、布施であるならば出す側は自己の感謝の気も
ちだけに基づいて決めるべきであろう。だが、実際には世間には相場があり、寺
院の側もそれに動かされている。
なかには、堂々と布施の額を示している寺もある。
1990年に行なわれた葬祭業者「くらしの友」の調査では、6割強が寺から先に
相場を言われたと答えている。これでは自発的な意思による布施ではなく、明ら
かに「料金」である。
仏教界の反発を受けてイオン側はあからさまには目安を示さなくなったものの、
今でもHP上ではその目安として「3万5000円から」という額を示している。
布施は一般的には「お気持ちで」と言われ、額がはっきりしない。出す側とし
ては、適切な額はどの程度なのか、それを知り、安心感を得たいものだ。
また、イオンの葬儀に消費者側が反応したのは、苦情が言いやすいということ
もあるのではないだろうか。
葬儀の機会はそれほど頻繁には訪れない。したがって、葬儀社との付き合いも
そのとき限りが多い。となると、何か問題があっても事後に文句が言いにくい。
ところが、日常的に買い物をする機会が多く、苦情窓口も用意されているイオ
ンが窓口になっていれば、何かあったときには苦情はイオンに言える。
その安心感が、イオンに葬儀を依頼することに結びついているのではないだろ
うか。
私は一度、イオンの担当者と懇談の機会を持ったことがあるが、イオンの側と
しては、顧客が求める限り、その要望に従うしかないということだった。
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文中にある、鎌倉新書が、2015年12月に行なった「第2回お葬式に関する全国調査」
の結果が、同社HPで見ることができました。
その概要は、会場の使用や、祭壇の設営、葬儀スタッフの人件費など“お葬式を行う”
ためにかかる費用の全国平均額は1,189,681円(火葬場使用料・式場使用料を含む。)
ただし、これには、飲食・返礼品費用・お布施は入らず、飲食・返礼品にかかる費用
の平均はそれぞれ、305,402円、344,652円。
2013年の第1回調査と比較して、お葬式費用が約11万円、飲食・返礼品が共に約3万円
減少とのことです。
布施料を別にした合計額が、約194万円。これに布施を加えるとやはり200万円をしっ
かりと超えますね。
この布施。
本来なら、領収書を要求すれば発行すべきと思うのですが、実際に要求する人はいる
のでしょうか、求められれば書いているのでしょうか。
宗教法人は、経理会計上、課税上優遇措置を得ていると言われますが、とりわけ不明
朗なのがこのお布施です。
その収入額自体、把握することが困難、というか、分からないまま、記録・公開しな
ければ通ってしまうのですから、標準お布施額を明示し、公明正大に要求し、受け取れ
ば経理会計上記録する、などということは考えてもいないでしょうね。だれも・・・。
イオンライフのサイトには、以下の図にあるように、布施の目安として表示している
のが確認できます。
まずは、布施以外で葬式に掛かる費用項目とその額は、オープンにされるようになっ
てきた・・・。
そして、お布施も大体の目安が、具体的に話題にされるようになってきた・・・。
そして、不明・不審な点について、クレームなどで公にされ、議論・改善されるよう
にもなってきた。
無条件に、無意識に受け入れ、行なっていた葬式。
ようやく世間体など気にしない、新しい社会性を持った生き方・暮らし方を考え、実
践できる時代が進行している感じがします。
次回、<時代は「家族葬で当たり前。直葬でもかまわない」という方向に>
の4回目です。
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【『0葬 ――あっさり死ぬ』構成】
はじめに
第1章 人を葬ることは相当に面倒である
第2章 なぜ葬儀や墓はこんなにもは厄介になったのか
第3章 生老病死につけこむ資本の論理
第4章 死者が増えるから葬儀で儲けようとする人々が次々とあらわれる
第5章 世間体を気にするがゆえに資本の論理につけこまれる
第6章 仏教式の葬儀は本当に必要なのか
第7章 マイ自然葬、そして究極の0葬へ
第8章 人は死ねばゴミになる
おわりに
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どちらをシリーズ化しようかと迷った、同じ島田裕已氏著の
『葬式は、要らない』(2010/1/28刊)もできればお読みください。
また、『もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない』
(2016/5/28刊)を、別サイト<介護相談.net>で、シリーズ化しています。