選挙権のない子どもたちを守ることも高齢者の務め。障害児保育ファースト!:『世界一子どもを育てやすい国にしよう』から(4)
『世界一子どもを育てやすい国にしよう』(出口治明・駒崎弘樹氏対談・2016/8/5刊)
を世代論として読み、紹介し、考えてみるシリーズを昨年12月に始めました。
第2章から始めています。
第1回:「シラク3原則」。政治がフランスの少子化を克服した
第2回:出産が先、結婚は後。「できちゃった婚」の方が正しい?
第3回:子育て・保育の暮らしをイメージできない公務員は人でなし?
今回は、第4回です。
「第2章 社会の仕掛け、仕組みを変えよう」
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見落とされていた障害児保育
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(駒崎)
保育園問題はとかく待機児童に焦点が当てられますが、障害児保育についても、もっと知って
ほしいと思っています。障害児の親の大多数が就業を希望しているのですが、そのほとんど就業
できていない。例えば、大阪市の調査によると常勤雇用率は5%で、健常児の親の7分の1と言わ
れています。
(出口)
障害児保育については、知らない人が多いかもしれませんね。
(駒崎)
せっかく命が助かり、生まれてきた子どもたち。しかし病院を出たあと、医療的ケアが必要
な子ども(医療的ケア児)のほとんどは、保育園でも幼稚園でも預かってもらえません。
通所施設は数時間しか使えず、ヘルパーもたくさん使えるわけではない。そんな状況で、親
(特に母親)は社会的に孤立し、24時間365日の看護に披露困憊しきっています。
例えば、世田谷区では9割の親が、睡眠は6時間以下で分断睡眠だったという報告があります。
ではなぜ、そんな状況に医療的ケア児とその親たちは、追い込まれてしまったのでしょうか。
その原因は、障害児福祉の古い制度にあるのです。
医療的ケア児の多くは、マンツーマンの支援が必要な重度の障害児です。しかし、重症心身
障害児(重心児、重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した状態の子ども)という、身体
的にも知的にも重い障害がある子とはみなされない子どももいます。
重心児認定されれば、マンツーマンの支援に必要な補助金が出ます。しかし、重心児認定さ
れなければ補助は出ず、よって支援を行うことは事業者にとって「割に合わない」ことになり、
支援の手は遠のきます。
子どもによっては自分で歩けるし、知的に「遅れがない」という場合もある。でも、そうす
ると重心児とはみなされないのです。だから医療的依存度が高く、呼吸器が外れたら死んでし
まうという非常にリスクが高く、濃密な支援が必要な状態にもかかわらず、重心児の定義に当
てはまらないので適切な支援が受けられない、ということになっていました。
つまりは、重心児とは違う新たな障害カテゴリをつくらなければならなかったのに、障害児
福祉行政は、それを10年近く怠ってきたのです。
今年、この障害者総合支援法という法律が改正になったのですが、そのきっかけになったの
は、僕たちが杉並区で運営する「障害児保育園ヘレン」でした。
僕たちは、ひとりのお母さんからメールで初めて、障害を持つ子どもの受け入れ先が極端に
不足している障害児保育問題に気がつき、これを解決するため2014年9月に東京都杉並区にヘ
レンを開園しました。
ヘレンを視察で訪れてくださった議員の方々の働きがきっかけで、超党派の国会議員、厚生
労働省、文部科学省の方たちが一同に顔を揃えて議論することができ、今回の改正障害者総合
支援法につながったのです、既存の法律を改正し、制度と制度の狭間に落ちてしまっている子
どもたちを、しっかりと制度の中に包摂すべく、何度も議論を重ねました。その結果、ついに
改正障害者総合支援法の中に、医療的ケア児の支援体制の整備が盛り込まれたのです。
これまで法律の中に存在していなかったことで、子どもとその家族には、なかなか支援の手
が届かなかったのですが、ようやく法的にも認められ、自治体は医療的ケア児の支援の努力義
務を負うことになりました。
このことは、過酷な状況に置かれていた医療的ケア児とその家族の状況が、好転していく端
緒となるという意味で、歴史的な一歩になったと思います。
(出口)
やはり声を上げていくことが、本当に大事ですね。
次回、<本気で未来に投資できるか> に続きます。
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本質的には、比較するものではないのですが、やはり、高齢者介護における生活支援サービス
やデイサービス等の一部の内容を考えると、こうした障害児ケアの方に、より補助金など財政支
出を向けるべき。
つくづくそう思います。
児童には選挙権がなく、介護高齢者には選挙権が。
しかも、圧倒的に高齢者人口が多数を占め、自分たちに好都合の政策を掲げ、実現してくれる
政党・候補者に票を投じる。
それが民主主義というならば、その看板を架け替えるべきでしょう。
これがポピュリズムの現れの一つならば、これを支持する人には、イエローカードを突き付け、
社会の成員としての権利執行権を逓減させる方法を考えるべきでしょう。
高齢者の尊厳において、高齢者自らその価値を著しく減じていることを知るべきでしょう。
駒崎弘樹氏代表の組織活動・事業活動のご尽力には、頭が下がります。
ぜひ「障害児保育園ヘレン」のホームページも一度ご覧頂きたいと思います。
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【『世界一子どもを育てやすい国にしよう』構成】
はじめに
第1章 ヒトが生きてきた歴史に学ぼう
第2章 社会の仕掛け、仕組みを変えよう
第3章 働き方を変えていこう
第4章 教育こそが人間形成につながる
第5章 年齢フリーのチャイルドファースト社会へ
おわりに
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『フランスはどう少子化を克服したか (新潮新書)』からシリーズも並行して。
「はじめに」
第1回:衝撃の実態・制度を、仏在住日本人ママが体験調査レポート
第2回:日仏の保育政策・制度の違いは、子育てに対する認識の違いにあり
第3回:親だけで子供を守り育てることはできないと考える仏社会
「第1章 男を2週間で父親にする」
第4回:イクメンなど足元にも及ばぬフランスの「男を父親にする」産休プログラム
第5回:男の産休=出産有給休暇3日間+11日連続「子供の受け入れ及び父親休暇」=有給
第6回:日本にもフランス風に、イクメン養成初級プログラムを育児有給休暇制度で!
第7回:フランスのパパは、育児を手伝うのではなく、分担する!
第8回:出産ファースト、育児ファースト。父親産休は当たり前のフランス文化
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