やる気がない保育園義務教育化は、政治の未成熟、民心の未熟に因:『世界一子どもを育てやすい国にしよう』から(5)
『世界一子どもを育てやすい国にしよう』(出口治明・駒崎弘樹氏対談・2016/8/5刊)
を世代論として読み、紹介し、考えてみるシリーズを昨年12月に始めました。
第2章から始めています。
第1回:「シラク3原則」。政治がフランスの少子化を克服した
第2回:出産が先、結婚は後。「できちゃった婚」の方が正しい?
第3回:子育て・保育の暮らしをイメージできない公務員は人でなし?
第4回:選挙権のない子どもたちを守ることも高齢者の務め。障害児保育ファースト!
今回は、第5回です。
「第2章 社会の仕掛け、仕組みを変えよう」
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本気で未来に投資できるか
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(駒崎)
日本の制度は、少子化を克服した諸外国に比べて、明らかに非合理な点や「いまの時代に
これはないよ」ということが温存されています。
出口さんもおっしゃいましたが、小学校に入れず待機している小学生がひとりもいないよ
うに、保育園だってやると決めればすぐにできるはずなんですよ。単なる優先順位の問題で、
本気でやる気がないということです。
やる気のなさは、公的支出にも表れています。例えばGDPに占める家族関係支出は日本で
は1%あまりですが、フランスは3%弱、イギリスになると4%弱に達しています。国が投入
している資源が、まったく違うんです。資源というのはお金です。
他国と比べると、日本はいまだに竹やりでB29を落とそうとしている状態と言える。でも
資源がないはずはないんです。「やりましょう」と決断すれば、待機児童の問題などすぐに
解決するでしょう。
いまは資源がないため保育園を増やすだけのお金がないし、保育士さんにも払えるお金も
ない。そうすると、保育園をつくるスピードが遅れるから、なかなか進まない。繰り返しま
すが、結局、お金の問題に行き着くんですよ。
(出口)
確かにそうですね。
(駒崎)
早く、きちんと未来への投資をしましょうね、という話です。「財源がない」などの話も
ありますが、本当でしょうか。いままで所得税を減税し続けてきたでしょう?
(出口)
単純計算すると、育児先進国並みに子育ての予算をふやそうと思えば、必要なのは、消
費税を2~3%上げることですよね。資金使途を子育て支援のためだと明確に訴えれば、国
民の賛同は得られるのではないでしょうか。
(駒崎)
そうです。消費税を1%上げると、約2.7兆円の財源が生まれます。消費税は景気への悪影
響が大きく、ケースバイケースですが、例えばたったそれだけでも、待機児童問題は解消
できる。はっきり言って待機児童問題は、年金や医療費みたいに大きなお金がかかりません。
年金は50兆円だし、医療費は毎年1兆円ずつ自然増となっているほど膨大な額なんです。
例えば、年金にはマクロスライドという仕組みが組み込まれています。高齢者が増えた
ら、その分ひとり当たりの年金額を下げましょうという制度ですが、やろうと言っている
にもかかわらず、満足にできていません。それを穴埋めするために、また税金を一部投入し
ています。そこに消えていくお金に比べたら、保育園に必要なお金など微々たるもの。
1兆円もあれば、ものすごいことができますからね。
(出口)
駒崎さんが一所懸命取り組んでおられる病児保育の問題も、小学校ならちゃんと保健室が
ある。やろうと思えば、すぐにでもできますよね。
(駒崎)
本気かどうかの違いだけなんです。病児保育だけなら、実際には500億円や100億円くら
いでも、かなりのことが変わるレベル。本当に本気度がないんです。
(出口)
僕は、繰り返しますが子どもを産みやすい社会をつくるためなら。消費税を上げるなどし
て財源を捻出するのは、大賛成です。「子どもを増やしたいから、これだけ税金を上げます」
と根拠を示してきちんと話せば、賛成を得られると思うんですよ。国民だってバカではあり
ません。いまはまだ政府が本気ではないし、お金(予算)をかけていないため、あまりにも
問題が多すぎると思うのです。
次回に続きます。
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本気度の違い、というと何か変です。
やる気があるか無いかのどちらか。
本気度にランク付けしてもあまり意味がない・・・。
出口さんは、「国民はバカではない」と言っていますが、バカとまではいかなくても、
自分の年金収入が減ること、医療・介護の負担が増えることに寛容かとなると、どうにも
怪しくなる・・・。
自分が現役世代時の保険料負担額よりも、はるかに多く年金を受け取ることや、医療・
介護を受けた際に必要な額が、自己負担をはるかに上回り、現役世代の負担や税金で賄わ
れていることに対する認識は、さほどない、感謝の念もない、当然のように思っている・
・・。と、
バカではないが、さほど理性的・理知的でもない、利口でもないのかな、と・・・。
財政の再配分。
税制改革、財政改革。
得意の先送り作戦。一億総モラトリアム社会化。
一種のポピュリズム。
それらを打破する政治勢力の未成熟、民心の未熟・・・。
二人の対談で示される問題の本質と根本的な改善・改革策は、政治の在り方に帰結する。
そして、巡り来て、本気度が感じられない政党と政治家の選択・選出行動をとる、国民
・個人個人に帰結する。
良心が、政党や政治家に届かないというべきか、政治への本気度が欠落した政治家しか
いないのか、どうにも不可思議な、先進国日本とその国民なのです。
大災害発生時には、行動を起こすけれども、日常の暮らしに関しては、自分の利害が先。
あまり我慢強くなく、感謝の気持ちも少なく、変化・変革を望まず、既得権が惜しい・・・。
優しさという特性の現れ方が、まだら模様の日本人。
「大人しい」という言葉は、「大人らしい」の一種の望ましい在り方を意味すると思い
たいのですが、どうやら、自分の利害を守るためには、保守的に、「大人しくしている」
大人。
そんなこんなで、保育園義務教育化の声は、与党はもちろん、野党からも上がってこず、
選挙時の争点になる気配も感じられません。
2017年。少しは、変化があるでしょうか・・・。
次回は、<人口ピラミッドは逆転している> です。
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【『世界一子どもを育てやすい国にしよう』構成】
はじめに
第1章 ヒトが生きてきた歴史に学ぼう
第2章 社会の仕掛け、仕組みを変えよう
第3章 働き方を変えていこう
第4章 教育こそが人間形成につながる
第5章 年齢フリーのチャイルドファースト社会へ
おわりに
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『フランスはどう少子化を克服したか (新潮新書)』からシリーズも並行して。
「はじめに」
第1回:衝撃の実態・制度を、仏在住日本人ママが体験調査レポート
第2回:日仏の保育政策・制度の違いは、子育てに対する認識の違いにあり
第3回:親だけで子供を守り育てることはできないと考える仏社会
「第1章 男を2週間で父親にする」
第4回:イクメンなど足元にも及ばぬフランスの「男を父親にする」産休プログラム
第5回:男の産休=出産有給休暇3日間+11日連続「子供の受け入れ及び父親休暇」=有給
第6回:日本にもフランス風に、イクメン養成初級プログラムを育児有給休暇制度で!
第7回:フランスのパパは、育児を手伝うのではなく、分担する!
第8回:出産ファースト、育児ファースト。父親産休は当たり前のフランス文化
【はじめに】
第1回:絶望の国の「お母さん」にしない、ならないために
第2回:待機すれば入園できるのか?お母さんを虐待する待機児童問題
第3回:「一人っ子政策」を進めているかのような日本の少子化対策の怪
第4回:少子化を克服したフランスの経済学者ピケティも不安視する日本の育児と少子化
第5回:子どもの数よりも猫と犬の数が多い現実
第6回:義務教育の早期化は世界的な潮流
第7回:共に教育を提供する保育所と幼稚園から導く、義務教育化保育園
第8回:保育園義務教育化は「未来への投資」。社会福祉の世代間格差も考える
【第1章「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない】
第9回:母親と子どもとの個体分離。片手落ちのお母さん擁護論の幼児性
第10回:炎上させる人間自身の親や子としての在り方を問い返すべき
第11回:家族資源が希薄な時代の「お母さん」の産後ケアのあり方
第12回:子どもを産み育てる親の覚悟と、それを支える社会の覚悟
第13回:養子縁組の少なさよりも人工妊娠中絶の多さが大問題
第14回:母乳であろうと粉ミルクであろうと、母子共に健康であれば良し
第15回:粉ミルクならできるイクメン哺乳瓶授乳体験
第16回:両論併記は選択の自由の証。母乳派・粉ミルク派・折衷派みんなそれぞれお母さん
第17回:イクメン、イクボスの広がりは、男性の育児時間を劇的に増やす?2016年社会生活基本調査10月20日
第18回:子育てに悩むお母さんを支える公的支援システムを!
第19回:少子化対策・保育制度・子育て支援・教育制度。一気通貫で子どものための社会改革を
第20回:児童虐待・育児放棄・児童遺棄。社会がその撲滅に責任を
第21回:子育て神話は、子の健やかな成長を願ってのもの。社会が現実で支える。