データに基づく教育経済学 vs 教育再生会議の「私の経験」論:『保育園義務教育化』から(23)

保育園義務教育化』(古市憲寿氏著・2015/7/6刊)を紹介しながら
保育・子育て政策の転換とそのシステムの構造改革を考えるシリーズ。
しばらく休んでいましたが、お薦め3部作と言える他の2冊のシリーズも揃いましたので、
再開することにしました。

今回から、「第2章 人生の成功は6歳までにかかっている」に入ります。
第1回:お母さん保育か、保育園保育か。まだある母性神話保育説

今回は第2回(通算第23回)です。

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 第2章 人生の成功は6歳までにかかっている(2)
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「教育」がきちんと研究されてこなかった日本

 このように、保育や育児の世界では、トンデモ本が当たり前のように流通している。
またデータが古い本も多い。
たとえば、ミネルヴァ書房の『乳児保育』という教科書には、乳幼児保育が子どもの発達に
悪い影響を与えないという研究が紹介されている。0歳の時に保育園に入った子どもの方が、
1歳半以上で保育園に入った子どもよりも精神発達指数が高いというデータも載っていた。
こういった研究自体は非常に意味があるものだと思う。
だけど、これらの調査が行われたのはそれぞれ1980年と1985年。今から30年以上前のこと
で、現代とは保育園の様子も社会状況も違う。
いくら信頼できそうな教科書とはいえ(ちなみに「信頼できそう」の僕なりの基準は表紙が
ださくて値段が高いこと)、ちょっとデータが古すぎる。

 もっとも、これらの研究できちんと追跡調査がなされていたら別だ。
 その時、保育園に入った子どもたちはその後どのような大人になったのか。早くから保育園
に入った子どもは、そうでない子どもに比べて、学力はどうだったのか。健康状況はどうだっ
たのか。幸せになれているか。

 だけど残念ながら、日本ではそういった研究がほとんど行われてこなかったようだ。
 少なくとも保育園で育った人がその後の人生で不幸になったというデータはないし、そもそ
も幼稚園よりも保育園の数が圧倒的に多い時代、それほど保育園に害があるとは思えない。
 だけど信頼できそうな研究が少ない・・・・。

<根拠なし!おじさんたちの「私の経験」披露合戦>

 そんな時に教育経済学者の中室牧子さんの研究に出会った。教育経済学というのは、「教育」
を経済学の理論や手法を用いて分析する学問だ。
 特に中室さんは、個人の教育歴や教育環境などに関する大規模データを用いて、教育を経済
学的に分析することのプロだ(なんか信頼できそうでしょ)。

 この章は、中室さんに直接会って聞いたこと、そして中室さんが最近出した
「学力」の経済学』という本をすごく参考にさせてもらった。「思い込み」が跋扈する育児
や教育の本では
珍しく、きちんとデータに基づいた議論がされている本だ。

 本の中では「子どもを勉強させるために、ご褒美で釣ってもいいか」「子どもはほめて育て
るべきか」「ゲームは子どもに悪い影響があるか」など子育てへの悩みへの答えが、教育経済
学的に示されている(営業妨害になるので、その答えはここでは書かない)。

 中室さんが熱く語っていたのは、日本の教育政策には科学的根拠がとにかく薄弱なのだとい
う点だ。
 たとえば、税制改革や経済政策において「私の経験から」発言するような大臣はいない。
 しかし教育政策では、とにかくえらい人たちの「私の経験」が幅をきかせてしまうというのだ。
 確かに官邸で開かれている教育再生会議の議事録を読んでみたら、すごいことになっていた。
 それは介護という名の、偉いおじさんたちの「私の経験」披露合戦だったのだ。

 「経験から私が言えることは、まず、家庭状況とか学校の成績にかかわらず、人間の可能性と
いうのはすごく大きい」
 「私の経験で言えば、修身の教科書にあった感動する物語(で)、人としての生きざまを身に
つけていった」
 「日本の知識人は日本語では考えられるのです。しかし、私の経験でも、これをすぐ即座に英
語なりほかの言葉に組み立てて対応していく力が国際的に弱い」

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※次回、<「50億円調査」が有効活用されていない!> に続きます。 

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確かに「私の経験」論が、都合よく撒き散らされ、わがもの顔でまかり通る世の中。
老害に近い!

しかし、この教育再生会議ですが、調べてみると、最後に開催されたのが平成20年1月末。
件の議事録は、平成18年、19年に多数開催された会議でのものが、公開されています
これの古い話なので、引き合いに出すのも、古いデータと同根。
「私の経験」論をピックアップする暇があったら、他に大事なことがあるような気がします。
とはいっても、結構、徳育がどうこう、道徳がどうこうと気になる発言に力が入っているメ
ンバーがいたりして、不安な内容が盛りだくさん。
この会議が拡大再生されるのかどうか、今は、保育所・待機児童対策の方が主で、それどこ
ろではないのかも、です。

 ところで『「学力」の経済学』の内容が、どの程度のものか、知っておくべきと思いAmazon
でチェック! 定価は
¥1728。中古は、最低でも送料込みで¥1507。
 経済性を考えると千円以上の本は原則買わないことにしているのですが、この本はそういう
わけにも
いかぬかと、今はポイント14倍が付くネットショップで購入すれば、中古より実質安。
 注文して、読んでみることにします。
文中の疑問への回答、後日載せますね。(内緒で)

乳幼児の保育・教育コストパフォーマンス。
感覚的には想像がつきますが、元々の条件が、すべての要素・要因において全員共通、など
ということはありえないので、いくら多数のデータのよる調査・分析・検証と言っても、100%
正しい、絶対!ということにはならないと思うのですが・・・。

想定外も想定内、という表現に倣えば、特例も全ケースの中の一例で、特殊と断じることは
適切ではない・・・。
そう考えるべき。
それが個性ですから・・・。

データにも拠る。
そう思います。

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<<『保育園義務教育化』シリーズ・ブログリスト>>
【はじめに】
第1回:絶望の国の「お母さん」にしない、ならないために
第2回:待機すれば入園できるのか?お母さんを虐待する待機児童問題
第3回:「一人っ子政策」を進めているかのような日本の少子化対策の怪
第4回:少子化を克服したフランスの経済学者ピケティも不安視する日本の育児と少子化
第5回:子どもの数よりも猫と犬の数が多い現実
第6回:義務教育の早期化は世界的な潮流
第7回:共に教育を提供する保育所と幼稚園から導く、義務教育化保育園
第8回:保育園義務教育化は「未来への投資」。社会福祉の世代間格差も考える
第1章「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない
第9回:母親と子どもとの個体分離。片手落ちのお母さん擁護論の幼児性
第10回:炎上させる人間自身の親や子としての在り方を問い返すべき
第11回:家族資源が希薄な時代の「お母さん」の産後ケアのあり方
第12回:子どもを産み育てる親の覚悟と、それを支える社会の覚悟
第13回:養子縁組の少なさよりも人工妊娠中絶の多さが大問題
第14回:母乳であろうと粉ミルクであろうと、母子共に健康であれば良し
第15回:粉ミルクならできるイクメン哺乳瓶授乳体験
第16回:両論併記は選択の自由の証。母乳派・粉ミルク派・折衷派みんなそれぞれお母さん
第17回:イクメン、イクボスの広がりは、男性の育児時間を劇的に増やす?2016年社会生活基本調査10月20日
第18回:子育てに悩むお母さんを支える公的支援システムを!
第19回:少子化対策・保育制度・子育て支援・教育制度。一気通貫で子どものための社会改革を
第20回:児童虐待・育児放棄・児童遺棄。社会がその撲滅に責任を
第21回:子育て神話は、子の健やかな成長を願ってのもの。社会が現実で支える。

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このブログサイト<世代通信.net>のカテゴリーのひとつが【保活・保育】

折々の関連する話題・ニュースなどを交え、保活や
待機児童問題や施設・
保育士問題などを軸にして取り上げてきています。

まず手掛けたのが『「子育て」という政治』。
昨年2015年10月に、『「子育て」という政治』からとして9回投稿

次が『ルポ 保育崩壊』。
以下の通算21回目で小休止中です。
待機児童問題解決に必要な子育て・保育行政の改革:『ルポ 保育崩壊』<共働き時代の保育>から(8)

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<「保育園義務教育化」3部作>の残り2つの書と、そのブログリストは、以下の通りです。

◆『フランスはどう少子化を克服したか』(高崎順子氏著・2016/10/20刊)シリーズ
「はじめに」
第1回:衝撃の実態・制度を、仏在住日本人ママが体験調査レポート
第2回:日仏の保育政策・制度の違いは、子育てに対する認識の違いにあり
第3回:親だけで子供を守り育てることはできないと考える仏社会
「第1章 男を2週間で父親にする」
第4回:イクメンなど足元にも及ばぬフランスの「男を父親にする」産休プログラム
第5回:男の産休=出産有給休暇3日間+11日連続「子供の受け入れ及び父親休暇」=有給
第6回:日本にもフランス風に、イクメン養成初級プログラムを育児有給休暇制度で!
第7回:フランスのパパは、育児を手伝うのではなく、分担する!
第8回:出産ファースト、育児ファースト。父親産休は当たり前のフランス文化

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◆『世界一子どもを育てやすい国にしよう』(出口治明・駒崎弘樹氏著・2016/8/20刊)シリーズ。

「第2章」
第1回:「シラク3原則」。政治がフランスの少子化を克服した
第2回:出産が先、結婚は後。「できちゃった婚」の方が正しい?
第3回:子育て・保育の暮らしをイメージできない公務員は人でなし?
第4回:選挙権のない子どもたちを守ることも高齢者の務め。障害児保育ファースト!
第5回:やる気がない保育園義務教育化は、政治の未成熟、民心の未熟に因
第6回:少子化と民主主義との深~い関係?

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保育園義務教育化』を含む上の3冊を並行して用い、少子化対策・保育制度・子育
て支援・教育問題をつなぎ合わせ、日常において報道される関連記事と擦り合わせつ
つ、社会の在り方、世代継承の在り方も考え、より望ましい社会改革に結びつけてい
くことができたら・・・。

そして、その主体の一つが政治の場に移されることを願って、粘り強く自分なりに問
題提起と提案をしていきたいと考えています。

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