乳幼児教育の重要性を証明した実験結果の最大の活用法とは?:『保育園義務教育化』から(26)

保育園義務教育化』(古市憲寿氏著・2015/7/6刊)を紹介しながら
保育・子育て政策の転換とそのシステムの構造改革を考えるシリーズです。

第2章 人生の成功は6歳までにかかっている」に入ります。
第1回:お母さん保育か、保育園保育か。まだある母性神話保育説
第2回:データに基づく教育経済学 vs 教育再生会議の「私の経験」論
第3回:めちゃくちゃ大事な、乳幼児期教育。その原資をどうするか
第4回:1960年代米国、ペリー幼稚園プログラムが示すこと。非認知能力と認知機能?

今回は第5回(通算第26回)です。

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 第2章 人生の成功は6歳までにかかっている(5)
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ノーベル賞受賞者が断言「5歳までの環境が人生を決める」

 乳幼児期の教育が子どもの「非認知能力」を高め、それが「人生の成功」において
非常に重要なこと。これを学問的に証明したのが、ノーベル経済学賞受賞者である
シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授である。
このヘックマン教授が最近、日本にも来ていた。その時、日本のメディアへのイ
ンタビューに対して「5歳までのしつけや環境が、人生を決める」と答えている。

その根拠として教授は、「ペリー幼稚園プログラム」よりも低い年齢を対象にし
て行われた「アベセダリアン・プロジェクト」を例に挙げていた。
 この実験は、貧しい家に生まれた平均生後4.4ヶ月のアフリカ系アメリカ人を対象
に行われたものだ。ここでもアメリカらしく、きちんと保育園に通わせるグループ
と、通わせないグループの比較実験が行われた。

 保育園の通った子どもたちは、一日に6時間から8時間、週5日間、当時の最新理
論に基づいた学習ゲームなどをさせられた。同時に教師は保護者面談を定期的に実
施、家庭学習の進め方を教えた。
 結果、どうなったか。
 するとやはりペリー幼稚園プログラム同様の結果が出た。教育を受けた子どもた
ちは、学校の出席率や大学進学率が高く、「いい仕事」に就いている割合も高くな
ったという。
 実験に参加した一人はテレビのインタビューに次のように答えていた。大学を卒
業後、ニューヨークで就職、「人生の成功者」になった黒人男性だ。

 「僕のことを賢いとか頭がいいとかいう友達がいます。でもそうじゃない。僕は
学ぶことが好きなだけです。勉強が好きになったのはすべて早期教育のおかげです。
多くの人は勉強は学校に上がってからでいいといいますが、僕には確信がある。学
習はずっと前から始まっています。

 そしてヘックマン教授は、これらの実験を踏まえてある残酷な事実を突きつける。

 「20代で集中的な教育を施しても、幼児期ほどIQを高めることはできません。」

 「人生はいつでもやり直せる」とか「人生に手遅れはない」というが、実際は人
生は後から挽回するのが非常に難しいというのだ。
 最近、日本語訳が出版されたヘックマン教授の『幼児教育の経済学』という本で
も、「学力」やIQなどは幼少期に確立され、大人になってから子どものIQや問題解
決能力を高めるのが非常に難しいことが述べられている。
 もっとも、教授と違って、人生はもっと後からでもやり直せるという研究も存在
する(じゃないと救いがないよね)。ただそれでも多くの研究者が賛成するのは、
乳幼児教育の方が「コスパ」がいいということだ。

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<マシュマロを我慢できた子どもは成功する>

中室さんに教えてもらったこれらの研究は、非常にショッキングだが、同時に直
感的に理解可能なものだ。
 確かに、この社会、「学力」だけでは生きていけない。むしろ「やり抜く力」や
「意慾」や「根気がある」といった「非認知能力」が重要になることが分かってい
る。

意欲や、長期的計画を実行できる力、他人と働くために必要な感情の制御が、
学進学率や年収、健康、犯罪率に大きく関係するというのだ。

マシュマロ・テストという実験がある。
4歳から5歳の幼児たちに「今すぐに1個のマシュマロをもらう」のがいいか、そ
れとも「15分待ってマシュマロを2個もらう」のがいいかを選ばせる。
要するに、子どもたちの自制心を見る実験なのだが、このマシュマロ・テストを
した子どもたちを追跡調査したのだ。

 その結果、 マシュマロ・テストで我慢できた子は、その後の人生で社会的成功
を収める確率が高いことがわかった。
マシュマロを待てる秒数が長いほど、大人に
なった時に自尊心が強く、ストレスにうまく対処でき、肥満率まで(!)低かった。
小学校に入る前の段階で、人生の「勝負」の大部分がついているのだ。
もちろん、
マシュマロを待てなかった子がみんな社会的敗者になるわけではない。
自制心がなくても成功している人はたくさんいる。

(以下、略)

※次回、<「生まれ」は「育ち」で変わる> に続きます。 

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こうした実験と分析結果の最大の価値。
それは、保育・教育格差を最小限にするための、保育・教育の義務化と無償化の根拠
として参考になることにある。
そう考えます。

とは言っても、保育園や学校という隔離された、養育・保育・教育環境が24時間維持
されるわけではありません。
保育園・学校以外で過ごす時間の環境の質・あり方も、子どもの成長・性格形成に大
きく影響を与えるもの。

教育格差問題を突き詰めていくと、親・保護者の在り方、家庭環境の格差をどうする
かの問題も対象にせざるを得なくなる。
ここが最大の問題です。
しかし、そこに至るまでの機会の公平性・平等性をまず、社会システムとして形成し、
維持する。
非常に価値のある、重要な政治・行政課題と言えます。

人口減少、少子化、労働力人口の減少、労働生産性、財政赤字・・・。
課題先進国・日本が抱える問題と実は直結し、その改善に貢献できると考えられるの
が、保育・教育の無償化、保育園義務教育化。
課題解決・改善先進国としての日本の制度と構造改革の最優先課題といっても過言で
はないのですが、まだまだ為政者・行政のその意識が希薄なのが、不思議であり、かつ
残念でなりません。

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<<『保育園義務教育化』シリーズ・ブログリスト>>
【はじめに】
第1回:絶望の国の「お母さん」にしない、ならないために
第2回:待機すれば入園できるのか?お母さんを虐待する待機児童問題
第3回:「一人っ子政策」を進めているかのような日本の少子化対策の怪
第4回:少子化を克服したフランスの経済学者ピケティも不安視する日本の育児と少子化
第5回:子どもの数よりも猫と犬の数が多い現実
第6回:義務教育の早期化は世界的な潮流
第7回:共に教育を提供する保育所と幼稚園から導く、義務教育化保育園
第8回:保育園義務教育化は「未来への投資」。社会福祉の世代間格差も考える
第1章「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない
第9回:母親と子どもとの個体分離。片手落ちのお母さん擁護論の幼児性
第10回:炎上させる人間自身の親や子としての在り方を問い返すべき
第11回:家族資源が希薄な時代の「お母さん」の産後ケアのあり方
第12回:子どもを産み育てる親の覚悟と、それを支える社会の覚悟
第13回:養子縁組の少なさよりも人工妊娠中絶の多さが大問題
第14回:母乳であろうと粉ミルクであろうと、母子共に健康であれば良し
第15回:粉ミルクならできるイクメン哺乳瓶授乳体験
第16回:両論併記は選択の自由の証。母乳派・粉ミルク派・折衷派みんなそれぞれお母さん
第17回:イクメン、イクボスの広がりは、男性の育児時間を劇的に増やす?2016年社会生活基本調査10月20日
第18回:子育てに悩むお母さんを支える公的支援システムを!
第19回:少子化対策・保育制度・子育て支援・教育制度。一気通貫で子どものための社会改革を
第20回:児童虐待・育児放棄・児童遺棄。社会がその撲滅に責任を
第21回:子育て神話は、子の健やかな成長を願ってのもの。社会が現実で支える。

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このブログサイト<世代通信.net>のカテゴリーのひとつが【保活・保育】

折々の関連する話題・ニュースなどを交え、保活や
待機児童問題や施設・
保育士問題などを軸にして取り上げてきています。

まず手掛けたのが『「子育て」という政治』。
昨年2015年10月に、『「子育て」という政治』からとして9回投稿

次が『ルポ 保育崩壊』。
以下の通算21回目で小休止中です。
待機児童問題解決に必要な子育て・保育行政の改革:『ルポ 保育崩壊』<共働き時代の保育>から(8)

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<「保育園義務教育化」3部作>の残り2つの書と、そのブログリストは、以下の通りです。

◆『フランスはどう少子化を克服したか』(高崎順子氏著・2016/10/20刊)シリーズ
「はじめに」
第1回:衝撃の実態・制度を、仏在住日本人ママが体験調査レポート
第2回:日仏の保育政策・制度の違いは、子育てに対する認識の違いにあり
第3回:親だけで子供を守り育てることはできないと考える仏社会
「第1章 男を2週間で父親にする」
第4回:イクメンなど足元にも及ばぬフランスの「男を父親にする」産休プログラム
第5回:男の産休=出産有給休暇3日間+11日連続「子供の受け入れ及び父親休暇」=有給
第6回:日本にもフランス風に、イクメン養成初級プログラムを育児有給休暇制度で!
第7回:フランスのパパは、育児を手伝うのではなく、分担する!
第8回:出産ファースト、育児ファースト。父親産休は当たり前のフランス文化
第9回:家族政策の大転換に成功したフランス。家族制度を払しょくできない日本の少子化政策
第10回:10年余で実現・定着したフランスの「父親育児」システムの要諦
第11回:フランス人男性の、妊娠・出産、父親になることへの意識レベルは?
第12回:夫と妻の育児方針と家事分担をめぐる課題
第13回:子育て責任を強要されるかのような過剰父親育休制度の違和感
第14回:父親の育休取得推進策の前に、父親の産休制度の導入を
「第3章 保育園には、連絡帳も運動会もない」

第15回:日仏、保育園の持ち物比較
第16回:保育事業・運営は、保護者負担を最小限にすることも含むべき
第17回:格差ゼロ化のための保育事業の義務化・無償化は国・行政の最重要課題に

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◆『世界一子どもを育てやすい国にしよう』(出口治明・駒崎弘樹氏著・2016/8/20刊)シリーズ。

「第2章」
第1回:「シラク3原則」。政治がフランスの少子化を克服した
第2回:出産が先、結婚は後。「できちゃった婚」の方が正しい?
第3回:子育て・保育の暮らしをイメージできない公務員は人でなし?
第4回:選挙権のない子どもたちを守ることも高齢者の務め。障害児保育ファースト!
第5回:やる気がない保育園義務教育化は、政治の未成熟、民心の未熟に因
第6回:少子化と民主主義との深~い関係?

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保育園義務教育化』を含む上の3冊を並行して用い、少子化対策・保育制度・子育
て支援・教育問題をつなぎ合わせ、日常において報道される関連記事と擦り合わせつ
つ、社会の在り方、世代継承の在り方も考え、より望ましい社会改革に結びつけてい
くことができたら・・・。

そして、その主体の一つが政治の場に移されることを願って、粘り強く自分なりに問
題提起と提案をしていきたいと考えています。

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