高齢者よりも次世代の需要供給能力を高めることが優先課題:「高齢化と日本経済」から考える(3)
日経紙<時事解析>欄で、5月11日から5回連続で連載された
「高齢化と日本経済」
そのテーマは
「65歳までの雇用を義務づける改正高年齢者雇用安定法の施行から約2年。
高齢者の経済活動は日本経済にどんな影響を及ぼしているのか、
統計データなどを基に現状を分析」
各回ごとの内容をお借りし、
経済面からでなく、生活面から高齢者の生き方、生活を考えています。
第1回 ⇒ 高齢者の体力・能力は千差万別。シニア世代の新しい価値観・人生観形成へ
第2回 ⇒ シニア消費・就労に頼らず、次世代のための制度・戦略を
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その3.引退世代増加の影響 供給能力低下招く
労働力人口が減りつつある日本にとって高齢者活用が不可欠との認識が
広がる一方、引退世代の増加が経済に与える影響については諸説がある。
15~64歳の「生産年齢人口」の減少は、日本経済がデフレに陥っている原因――。
日本がデフレに陥った時期と生産年齢人口が減少に転じた時期が
ほぼ重なったこともあり、藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員など
「人口減少デフレ説」を主張する論者は多い。
生産年齢人口は活発に消費する層でもあり、この層が減れば総需要が減り、
モノやサービスの価格が下がってデフレが加速するとの見方だ。
浜田宏一・米エール大名誉教授(内閣官房参与)は
著書「世界が日本経済をうらやむ日」で、
生産年齢人口が減っている諸外国のデータを示し、
「現役世帯の減少に伴ってデフレになっているのは日本だけ」と、
この仮説に反論する。
浜田氏は、生産年齢人口の減少は企業の供給能力の低下にもつながり、
需要と同時に供給も減るので物価は変動しないとみる。
総需要の減少よりも、供給能力の減少の影響の方が大きいとみるのは、
櫨浩一・ニッセイ基礎研究所専務理事。
「総需要は人口にほぼ比例して決まるが、引退世代の比率が高まるにつれて
供給制約の問題が大きくなる」と警戒する。
とりわけ、介護・医療などの分野で人手が足りなくなり、
急増する需要を満たせなくなる恐れがあると予測する。
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確かにモノの需給バランスが価格に影響を与えはしますが
食品など日常の生活での必需品が、災害や天候などの影響が少ない場合は
市場での競争環境に左右される要素が強いはずです。
日本の流通サービス業の労働生産性が低いことは定説であり
これを根本的に変革することは難しいと見ています。
労働集約型の第3次産業であるローカルスーパーや外食店では
規模による生産性向上を図ることにはムリがあります。
むしろこれらの業種・業態では、ワークシェアにより短時間労働による
労働参加率を高めることで貢献している側面があると思うのです。
これは決して悲観すべき、特段問題視すべきものではなく
一つの社会貢献、循環型社会の特色と捉えてもよいのではと思うのです。
高齢者で健康上問題がなく、働く意欲も高い人の一部は
こうした労働市場への参加が見込まれ、これはこれで望ましいことと
評価すべきでしょう。
大手コンビニが地方自治体と高齢者雇用に取り組むなどの事例も
最近報じられました。
もちろん専門的な技術・知識を持っている高齢者が
第2・第3の起業により、労働生産性が高い事業を行ってくれれば
一層、社会的な貢献度が増します。
そして多数を占める年金収入に生活費の多くを頼る高齢者にとっては
インフレによる年金の利用価値の減少よりも、デフレによる価格の
低下の方が喜ばしいことも当然です。
経済学のどの理論が実態に近いか、正しいか、という議論は、
これまでもそうであったように、ある意味不毛であり、ある時期の
その結果や正誤にどなたかが責任を取って、被害を弁償してくれたなどと
いうことは聞いた試しがありません。(当然ですが・・・)
学者も政治家も官僚も、そして評論家はもちろん・・・。
人手不足で需要に対応できなくなる、という不安。
医療・介護の世界でのモノ不足で想定できるモノは、施設の不足
くらいでしょうか。
それも空き家や未利用施設があるわけですから、現実的には
何らかの対処の仕方はあるはず。
恐らく、人手不足部分での不安と警鐘が、将来を見る今の最大の
要素・問題ということでしょう。
私は、意外にその問題に関しては楽観的です。
その理由は、高齢者にも医療・介護の必要度は個人によるバラつき
が大きく、今後自立した生活をなんとか送りたいと思い、それを
心がける高齢者、とりわけ70歳代と80歳代前半組が今までよりも
増えるのでは、と推測するため。
もう一つは、高齢者同士が相互に見守り合う社会やサークルなどが
増えるだろうなという視点。
そして、最も大きな要素は、引退年齢・年代が、今後少しずつ
高まって行くことにより需要の増加が抑制される方に働くこと。
などと考えるからです。
数値予測では確定できない、人間の判断や価値観、ライフスタイルの
選択・・・。
最も多数勢力?である団塊の世代は、自衛意識と社会的な関係性を
併せ持っていると信じているからです。
いかががでしょうか・・・。
シニア世代の消費に対する需要供給がどうこうと論じるよりも
本来、現役世代・次世代の若い世代の需要供給を考え、高めていく
課題を優先すべきと考えるのですが、視点・論点は高齢者ばかり
向いてしまうのも昨今の傾向です。
次世代こそ、労働生産性の高い仕事・ビジネスを創造し、変革し
そこで生み出した彼らの付加価値・収益が、消費需要と供給の増加に向かう
社会を創りあげてくれることを願いたいものです。
次世代が少数労働力世代として、高い労働生産性を上げることが
普通に要求され、普通に実践・実現することになるでしょうから。
高齢者は、多面的にそれを支える存在であれば、と思います。