雇用形態で異なる育児休業制度利用度と出産後就業継続率:日経【女性力活用の課題】を考える(4)
日経ゼミナール【女性力活用の課題】の着眼点(2014年7月掲載)
これまでも日本では、男女共同参画社会の実現に向けた取り組みが進められてきた。
しかし、いまだ女性が能力を発揮できているとは言い難い。
女性の働き方は、世代や家族形成による影響を受けやすく、男性と違って多様だ。
近年の女性にまつわる変化を捉え、女性活用上の課題について述べる。
という視点からの記事を以下に引用し、考えてみます。
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4.伸びない出産後の就業継続率(2014年7月19日)
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近年、既婚女性の就業率は上昇しているが、依然として
出産後の離職者は多い。
就業継続者は若干増えているようだが、これは働く女性が増えているためである。
出産前有職者に限って就業継続率を計算し直すと、実はわずかに低下している。
第1子出産前後の妻の就業継続率は、
子どもの生まれ年が1985~89年では39.0%だが、2005~09年では38.0%である。
ただ、企業における育児休業制度の整備が進んだことで、
育休取得率は80年代の3倍程度に上昇している。
就業継続状況は、雇用形態によって大きな違いがある。
正規社員では、子どもの生まれ年が85~89年では就業継続率は
4割だが、05~09年では半数を超え、
育休取得率も1割から4割へと上昇している。
一方、パートなどの就業継続率は、子どもの生まれ年によらず
2割前後で推移し、育休取得率も5%に満たない。
パートなどの非正規雇用者も育休取得は可能だが、厚生労働省によれば、
(1) 同一事業主に引き続き1年以上雇用されている、
(2) 子の1歳の誕生日以降も引き続き雇用される見込みがあるなどの
条件を満たす必要がある。
(1) は過去の事実であり明確に示せるが、
(2) は人材に余裕のない企業では確約することが難しい。
このことが非正規雇用者では育休取得率や就業継続率が伸びない
背景にある。
近年、既婚女性では就業率が上昇しているが、
増えているのは非正規雇用者である。
就業継続率の低い非正規雇用者が増えているために、
女性全体の就業継続率も伸びていない。
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パートタイマー等非正規社員雇用は、
本人の意志が正社員希望にもかかわらず非正規社員として働かざるを得ない
場合と、ご本人の希望自体がパートなど非正規社員として就労する場合
双方があります。
従い、非正規社員の就業継続率や育休取得率が低いことが問題と断定する
ことは適切ではない側面があり、正規・非正規の2分類で集めたデータが、
そうした多様性をどこまで客観的に考察・評価しているか、問題は残ります。
一昨年から昨年にかけて、こうした勤務形態・就労条件の違いはあっても
非正規社員を「限定社員」と称して、「正社員」に雇用形態・雇用契約を
変更する制度を導入する企業が、大手を中心に増えました。
今、一段落したのか、限定勤務型正社員制に関するニュースは聞かなくな
りました。(なぜでしょうか?)
限定正社員と非正規社員の違い。
賃金形態や就労形態では恐らく根本的な違いはないかと思います。
大きな違いは、前者は雇用期間の定めがないということ。
あとは、一定期間以上の勤務期間条件を満たさなければ社会保険非加入
扱いとなる場合がある福利厚生制度の適用に絡むもの。
つまり雇用の安定性・安全性にあります。
雇用が保証されれば、就業継続率も育休取得率も、確実に上がることは
想像・想定されます。
ただ、企業サイドから考えると、仕事の質が、他の新規雇用の人でも
比較的簡単に習得でき、一定のレベルまで能力が向上すると、それ以上
の領域では、伸びることがこんなになる場合、どうしても非正規雇用で
対応することになります。
これ自体、批判・避難されるべきものではないと思います。
この記事のもう一つの問題は
「仕事か、出産・育児か」という一件2者択一を求められるというよりも
「仕事も、出産・育児も」という、両方を実現・実行することを焦点に
していることです。
どういう選択をするかは、人それぞれの意志に委ねられており、こうで
あるべき、と断定すべきものではありません。
単に労働力人口が減るから、その対策のために高齢書と女性の就業者数を
増やすべき。当然、今働いている女性の離職は、絶対に食い止めなければ
いけない。
でも子どもは産んでもらわなければ困る・・・。
結構国も身勝手なことを、アベノミクスの御旗のもと、主張しています。
加えて、こうした論点で、常に欠けているのが、働く人にとって、その
仕事その職場が自分の希望や活かしたい能力に適しているかどうか・・・。
もしそうでない場合、例えば家計上やむを得ないから我慢して働かなく
てはいけない、とか、出産・育児後は自分の経験を活かせる仕事・職種で
働きたい、あるいは希望に沿ってくれる企業を探したい・・・、
など、個人個人の事情、背景があるはずで、数値には、こうした面が反映
されません。
そう考えると、単純に、1本のラインだけを設定して人生を送るのではなく
こと仕事に関しては、時に途切れたり、間隔を置くなどしながら、自分に
合った仕事・職種・職場・企業との出会いや創造を楽しむ人生が望ましい
のでは、と思うのです。
出産も育児も、もちろん結婚も家族との生活も、すべての経験が仕事にも
生き、自身の能力の向上や適性の発見、生きがい・働きがいの発見に繋が
る可能性を持っている。
そうしたことが可能で、認められる社会こそ、
「女性力活用」が自然に可能な、自然に行われる社会と言えると考えます。
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日本経済新聞は、
<アベノミクス>の女性活用・女性活躍政策に殊の外ご執心です。
同紙の「経済教室」面の「ゼミナール」と「時事解析」欄。
そこで、昨年2014年から今年にかけて
◆『女性力活用の課題』<ゼミナール>(2014年7月16日から10回:にっせい基礎研究所)
◆『女性の力を引き出す』<時事解析>(2014年12月22日から5回:辻本浩子編集委員)
◆『女性登用の課題』<ゼミナール>(2015年4月16日から10回:第一生命経済研究所)
と<女性>をテーマにしています。それらのシリーズを素材にし、他の視点も時おり挟みながら
女性活用問題を、経営視点、男女・結婚問題、結婚・出産・育児・家族家庭問題、
生き方などと絡ませ、シリーズで考えています。
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このシリーズでのブログを以下にラインアップ!
⇒ 女性の就労率向上が出生率向上につながるか:日経[女性力活用の課題]から考える女性の生き方(1)
⇒ 男女雇用機会均等法の目的と成果とこれから:日経【女性力活用の課題】を考える(2)
⇒ 就業率や未婚化・晩婚化など気にせず自分の人生設計で:日経【女性力活用の課題】を考える(3)