高齢者の能力の公正な評価処遇制度再設計と活用を:「高齢化と日本経済」から考える(4)
日経紙<時事解析>欄で、2015年5月11日から5回連続で連載された
「高齢化と日本経済」
そのテーマは
「65歳までの雇用を義務づける改正高年齢者雇用安定法の施行から約2年。
高齢者の経済活動は日本経済にどんな影響を及ぼしているのか、
統計データなどを基に現状を分析」
各回ごとの内容をお借りし、
経済面からでなく、生活面から高齢者の生き方、生活を考えています。
第1回 ⇒ 高齢者の体力・能力は千差万別。シニア世代の新しい価値観・人生観形成へ
第2回 ⇒ シニア消費・就労に頼らず、次世代のための制度・戦略を
第3回 ⇒ 高齢者よりも次世代の需要供給能力を高めることが優先課題
今日はその4回目です。
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その4.定着する再雇用制度 賃金削減疑問視も
働けるうちはいつまでも働きたい――。
内閣府の調査で、こう答える中高年層は3割を超えている。
2013年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法では、
企業は原則、雇用の継続を希望する人を全員、65歳まで雇わなければならない。
住友生命保険が13年末にまとめた約1600社対象のアンケート調査結果
によると、定年を迎えた人の雇用を確保する方法として「再雇用制度」を
導入した企業が9割強。
定年年齢の引き上げや定年制の廃止に踏み切った企業はごくわずかだ。
雇用の形態は契約社員が6割強と最も多く、パートタイム、正社員が
ともに2割弱。
担当する仕事は
・「直前の職務を継続する」企業が6割強、
・「対象者や担当の職務によって変更」が3割強に対し、
・「原則として他の職務へ変更」は3%強にとどまった。
給与は定年時の「6割以上7割未満」が約23%、
「5割以上6割未満」が約22%、「4割以上5割未満」が約16%。
60歳定年を超えて働きたい人の多くは雇用形態を契約社員に切り替え、
下がった給料で直前の仕事を続けていることがわかる。
厚生労働省の調査では、
14年6月時点で65歳までの雇用を確保している企業は約98%、
希望すれば65歳以上まで働ける企業も71%に達している。
権丈英子・亜細亜大教授は「雇用情勢が改善している影響もあり、
改正高年齢者雇用安定法は企業の間に着実に根付いてきた」と評価する一方、
「定年前と同じ仕事でも賃金をカットされる人が大半で
労働者の側からみると合理的な理由はない」と問題を提起する。
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仕事の価値を公正に評価し、それに基づき賃金を支給する。
言うのは簡単ですが、受け取るすべての人が満足する制度を用意するのは
簡単なことではありません。
高度成長期は、企業の収益の向上にスライドして定期昇給を行えば、多くの
社員の満足感を満たすことができたのですが、それは遠い過去のことになり
ました。
一昨年からアベノミクス主導で、大手を中心にベアが復活した感があります
が、実施できる企業は限られており、今後もその流れが継続するかどうかの
保証はありません。
ただ、間違いなく、年金受給年齢が65歳になったことで、定年延長や高齢者
の再雇用がほぼ定着しつつあることは望ましいことです。
しかし、問題は、その適用を受ける高齢者、ベテラン社員の賃金制度をどう
するかは、この記事が示す通り、簡単にはいきません。
本来、仕事の内容が変わらなければ賃金も変わらないはずですが、日本の
多くの企業は、一定年齢に達すした場合や再雇用時には、賃金をかなりの幅
で減額する制度を適用してきました。
従業員サイドも、不満はあっても退職するよりはまだマシ、という感覚で
それを受け入れてきたわけです。
ところが、労働力人口が減少する時代に入り、女性と高齢者の就労を増やす
ことが社会的な課題となってくると、ましてや年金を受け取ることができる
年齢が高くなると、年金の一部補填という意味合いでの賃金ではなくて、
これまで通りの生活のための賃金が必要になります。
ですから、従来の制度運用通りの賃金カット・減額では、今まで我慢して
きたが、我慢すべき理由がない、もらうべきものは要求する・・・。
となります。
企業も高齢者の経験・スキルに頼らざるを得ないことも考慮し、賃金制度・
体系の改善が必要と認識し、着手せざるをえなくなります。
ですが、そうなると賃金総額・人件費枠内で次世代・若い世代との配分の
バランスを変更することも考えます。
ちょっと視点が違いますが、ホワイトカラー・エグゼンプションをめぐる
議論・報道の中で、その制度を「脱・時間給」と表現していました。
年収1000万円以上得ている人に、時間給という概念を用いることは不自然
なのですが、時間給いくらと価値を表現できる仕事と、時間給に換算すること
が難しい仕事の2種類に分けることができるのでは、と考えます。
定年延長、高齢者再雇用に当たって、全体的な賃金制度、評価処遇制度の
改定・改善を考える場合、時間給換算・時間給表現が可能な仕事かそうで
はないか、を軸にして検討・構築するのも一つの方法と思います。
もう一つは
経営・経理、(部門別)損益計算書の透明化・公開により、仕事の価値や
原価、労働生産性・付加価値生産性、人件費率・労働分配率などの理解と
その改善のための全社・全体的な活動を展開することも提案したいと思い
ます。
自分の働きによる貢献度や仕事の価値が、ある程度自分でも分かる経営、
マネジメント、人事制度を整備するのです。
経営に、多くの社員が参画し、理解・浸透させる取り組みです。
企業規模にもよりますが、3年~5年くらいかければ、多くの社員の満足度・
納得度が高まる制度が整備され、経営体質の強化と人材育成にも結びつく
ことでしょう。
もちろん、そうした業務に、高齢者の経験・知見を十分活用すべきこと
も当然です。