女性活用の目的と手段を個別に再評価・再構築へ:日経【女性力活用の課題】 を考える(9)(10)
日経ゼミナール【女性力活用の課題】の着眼点(2014年7月掲載)
これまでも日本では、男女共同参画社会の実現に向けた取り組みが進められてきた。
しかし、いまだ女性が能力を発揮できているとは言い難い。
女性の働き方は、世代や家族形成による影響を受けやすく、男性と違って多様だ。
近年の女性にまつわる変化を捉え、女性活用上の課題について述べる。
という視点からの記事を引用し、考えてみるシリーズ。
これまでのラインアップは
第1回:女性の就労率向上が出生率向上につながるか
第2回:男女雇用機会均等法の目的と成果とこれから
第3回:就業率や未婚化・晩婚化など気にせず自分の人生設計で
第4回:雇用形態で異なる育児休業制度利用度と出産後就業継続率:
第5回:限定正社員制の向かうべき方向・方法
第6回:仕事と家庭の両立支援は安保法案よりも平和に貢献する重要課題
第7回:働き方を変える目的と方法を見直す
第8回:女性の賃金・収入が増える働き方・人事制度と女性起業企業づくり
今回は、このシリーズのまとめに当たる第9回と第10回、2回分を
転載し、総括します。
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9. 官民で女性登用拡大へ(2014年7月26日)
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成長戦略では、女性の活躍促進策として「待機児童の解消」
「女性役員・管理職の増加」「職場復帰・再就職の支援」などを掲げている。
今回と次回で、主な取り組みの現状と課題について述べる。
喫緊の課題である待機児童問題については、2017年末までに約40万人分の
保育の受け皿確保との目標を掲げ、既に351の市区町村からの参画を得ている。
着実な実施に向けて、今年6月の改訂では、保育士確保のほか、育児経験豊か
な主婦などが活躍できるような「子育て支援員」の創設も盛り込まれた。
保育所不足と並び、女性の就労継続の障壁となる「小1の壁」の解消として、
学童保育施設の整備も言及された。厚生労働省と文部科学省が連携し、19年度
までに約30万人分の受け皿拡大などが実施される。
女性登用については、20年までに指導的地位に占める女性の割合を30%との
目標だが、13年の上場企業の女性管理職比率は、わずか7.5%である。
政府は、有価証券報告書への女性役員比率の記載を義務づけるとともに、
「女性の活躍『見える化』サイト」で、上場企業の女性登用状況を公表。
国家公務員における女性登用の拡大も掲げ、国から率先して取り組む姿勢を
見せている。
このほか、仕事と子育ての両立支援として、子が3歳になるまでは育児休業や
短時間勤務を選択しやすいような職場環境整備の働きかけ、育休中や復職後の
能力向上に取り組む企業への助成制度の創設、男性の家事・育児への参画促進
などが進められている。
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10. 人材の計画的育成欠かせず (2014年7月27日)
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成長戦略における女性の活躍促進策では、仕事と子育ての両立支援として、
保育所や学童保育施設などの整備、そして、女性の登用が積極的に行われて
いる。
近年、既婚女性の就業率は上昇しているが、出産後の就業継続率は伸びてい
ない。
30歳前後の女性では、就業継続の難しい非正規雇用者が増えているためだ。
認可保育所は雇用形態によらず、一般に就労していれば入所資格がある。
しかし、出産時に退職し求職中(無職)では、待機児童が解消されていない
中、入所には不利だ。保育の受け皿拡大が進めば、状況は改善されるが、
雇用形態によらず利用しやすい制度作りも望まれる。
育休についても、雇用形態で不利になりにくい環境整備が必要だ。
学童保育では、受け皿拡大も重要だが、「小1の壁」の大きな問題は、保育所
より子を預けられる時間が短くなり、就労継続が難しくなることだ。
開所時間の延長を望む声は多い。
女性登用について数値目標を掲げることは、諸国に後れを取る日本で、特に
男性の経営層・管理職層の意識改革に大きな意味を持つ。
積極的に登用するだけでなく、管理職へのキャリアパスを明示し、人材育成
に計画的に取り組む必要がある。
現在のところ、全ての女性が輝くためには不足した部分もあるが、女性の活
躍促進は、まだ始まったばかりだ。
少しでも多くの女性が活躍できるように、多方面からきめ細やかな追加対策
を講じるとともに、試行錯誤を繰り返すことが肝要だ。
(この連載はニッセイ基礎研究所・准主任研究員・久我尚子が担当したもの。)
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8回目までは、テーマを具体的に絞っていましたので、分かりやすかったの
ですが、9回目と10回目は、総括的にまとめている感じで、あまりインパクトは
ありません。
というか、この連載の時期は、昨年2014年7月であったわけですが、現在の
状況が確実に改善されているか、変化しているかと問いかければ、ほとんど進
展がないと言ってよいかと思います。
そして恐らく、この後取り上げることを予定している、
◆『女性の力を引き出す』<時事解析>(2014年12月22日から5回:辻本浩子編集委員)
◆『女性登用の課題』<ゼミナール>(2015年4月16日から10回:第一生命経済研究所)
の問題提起でも繰り返されると思われるのです。
現実的に女性活躍を促進させるためには、何かしらの法制化や予算化が欠か
せません。しかし、どうも「少子化社会対策大綱」とか「子ども・子育て支援
新制度」などと課題・対策の活字が並びますが、施設や人員などに関する数値
目標とその実現のための予算付け・資金投入計画は、はっきりと示されていな
いように思えます。
女性管理職の数値目標を法律で規定しようと言うのも、どちらかというと、
海外投資家の目を気にしてのことであって、本来、純粋に、真剣にその必要性
やこれからの人材活用法などについて考え、具体化する作業は、個々の企業に
委ねざるをえません。
当事者でない国が、なぜこうしたポーズに終始しているのか、その無神経さ、
中身の無さには呆れ返ってしまいます。
9. 官民で女性登用拡大へ
10. 人材の計画的育成欠かせず
という2つの命題が漠然としたものに戻ってしまったのは、結局その課題自体
が、企業規模や事業形態、職務内容や職種などにより、現実的にあまりも違い
があり過ぎるからという側面があります。
できること、ムリなことの格差・違いも非常に大きいはず。
とするなら、最も基本として取り組むべきことは、女性と子どもをめぐる
国の社会福祉政策における具体化・予算化で主導し、その後に、民間領域での
法制化を、規模や業種や組織形態などの違いに応じて、順次図っていくこと
と考えます。
あまりにも大きな枠組の中での議論は、結局総論提起・情緒的課題提起の
繰り返しに終始し、現実の女性の元には、安心も、補償も、確実な約束も届く
ことがない・・・。
男女の平等性を掲げることが、社会経済にとって、絶対的にプラスになるのか?
本来、男性と女性の違いを再度確認し、その違いをどのように認め、活かし、
どのように克服していくのか、そして、男性と女性の間にしか生まれない子ども
をどう考えるのか・・・。
本来、個人個人の生き方と関係しているはずの女性活用課題は、官民がどう
こうという次元だけでなく、一人ひとりにも問題提起し、語りかけ、社会とし
てどうあるべきかとを重ねあわせて考えるべきなのです。
そうした考えや声を反映させるのが政治の使命であることは言うまでもあり
ません。
次回から、2014年12月22日から5回連載された
◆『女性の力を引き出す』<時事解析>から考えてみます。
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日本経済新聞は、
<アベノミクス>の女性活用・女性活躍政策に殊の外ご執心です。
同紙の「経済教室」面の「ゼミナール」と「時事解析」欄。
そこで、昨年2014年から今年にかけて
◆『女性力活用の課題』<ゼミナール>(2014年7月16日から10回:にっせい基礎研究所)
◆『女性の力を引き出す』<時事解析>(2014年12月22日から5回:辻本浩子編集委員)
◆『女性登用の課題』<ゼミナール>(2015年4月16日から10回:第一生命経済研究所)
と<女性>をテーマにしています。それらのシリーズを素材にし、他の視点も時おり挟みながら
女性活用問題を、経営視点、男女・結婚問題、結婚・出産・育児・家族家庭問題、
生き方などと絡ませ、シリーズで考えています。