望む終末期・最期を、家族・医師に伝える文化形成を:日経<130万人のピリオド>で見る「終活」模様(6)

2016/2/1から、毎週月曜日の日経 夕刊で
「130万人のピリオド」と題して、終活・人生の最期をテーマに
連載しています。
昨年の年間死者数が130万人を超え、今後も増え続けることが予想される社会。
その連載記事を順に紹介し、終活を考えてみます。

第1回:終のすみか。ホームホスピスも在宅で迎える最期のカタチ 
第2回:増える家族葬や直葬。火葬場待ちが常態化で友引火葬も当たり前
第3回:独居高齢者の孤立死リスクにどう対処するか?
第4回:「手作り葬」「家族葬」「直葬」。DIY終活が見えてきた!
第5回:「終活消費」対象のお墓対策と「おりん」? 

今回は、第6回の以下の記事です。

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 6.望む最期、どう迎える 意思はっきり家族・医師へ(2016/3/7)
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最期は本人が望むかたちで迎えさせたい――。
そう考えていても「希望どおり」を実現するのは容易でない。
人生の最終段階を家族はどう支えるべきか。
悔いのないみとりのために、やっておくべきことはあるのだろうか。

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「お父さんは1カ月もてばいい状態です。病院にいるか、ホスピスか、
自宅に戻りますか?」。
東京都の主婦、佐藤好美さん(42歳)は2015年11月、末期がんの父
(享年70歳)
の主治医に選択を迫られた。
不安に押し潰されそうになりながらも、佐藤さんは「自宅」を選んだ。
背を押したのは2年ほど前、がんの脳転移が分かったときに父が口にした
「最期は自宅で迎えさせてくれ」という言葉だ。

佐藤さんを支えたのは在宅医療や介護の人たちだ。
ヘルパーは毎日、訪問入浴は週1回。
訪問看護は週3日、診療は週1日で、
来訪予定がない日は必ず朝に電話が
あった。

2週間たった頃、脈が弱くなり血圧が低下、医師は「今日、明日かもしれ
ない」と告げた。
駆けつけた夫と交代で3日間、ほぼ意識がない父を懸命に看病した。
12月14日の朝、静かに息を引き取った。

葬儀を終えると「肩の荷が下りた」と感じた。
「父の言葉に応えることができたから『終わった』と思えた。いつか褒め
てと父に言いたい」

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都内の会社員、田中健さん(仮名、50歳)の母(享年72歳)は末期がん。
昨年末、転院希望先の医師に呼ばれた。

医師は「前の病院と同じ治療しかできない可能性はあるが、体力が回復すれば
抗がん剤治療を再開できるかもしれない」。
万が一のときの治療について、事前意思表明書を出すよう求められた。
何を望み何を望まないか書き込む。
「心臓マッサージ、気管切開、胃ろう(栄養を胃に注ぐための入り口)など
細かく挙げていて戸惑った」。
母の希望を聞くと「全部いらない」。意思は明確だった。

2週間後、自宅で療養中に容体が急変し母親は亡くなった。
田中さんは最期の瞬間に立ち会えなかったが「本人が納得できる形で終末期
を生きたと思う」と話す。

「最期は自分で選びたい」「親が望むようみとりたい」。
多くの親子が願うが、実現には葛藤や困難が立ちはだかる。
田中さんは「母の気持ちを家族全員が分かっていたことと、医師が希望を持
たせて励ましてくれたことが大きい。『末期だから何もできない』という
態度だったら、書面を前に冷静に判断できたか分からない」と明かす。

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東京女子医科大学第一内科非常勤講師の渡辺敏恵医師(62)は5年ほど前、
担当した80代の女性の家族が忘れられない。
女性は長期入院中に2度目の脳梗塞を起こし、意識がなくなった。
50代の娘に「胃ろうをつくりますか?」と尋ねると、「ずっと闘病してきた
母をこれ以上苦しめたくない」と断った。
しかし、遠方から駆けつけた40代の息子は「とにかく生きていてほしい」
胃ろうを希望し、言い合いになったのだ。

結局、姉が弟を説得する形で、女性は点滴で水分補給をするだけで安らか
に亡くなった。
それでも「姉にも弟にも『これでよかったのか』という後悔が残ったと思う」。
本人の意思が分からないまま治療を選ばなくてはならない家族の心の負担は、
みとりの後も続く。
「どういう生き方をして、どういう最期を迎えたいかを家族や医療者に伝え
ておければ、自分はもちろん、家族のためになる」と渡辺さんは話す。

アドバンス・ケア・プランニング」は医療・ケアチームが患者や家族と話し
合い、患者の意思に即した治療を決める。
病状の変化などに応じて何度でも話し合い、治療方針を変える。
医療現場で進むが、国は14~15年度に全国15の医療機関で同種のモデル事業
を実施。
来年度は医療・ケアチームの育成研修をする。

「医療者は患者と家族に寄り添い治療にあたるべきだ」。
がん遺族のつどいを20年以上開く「青空の会」共同代表の中野貞彦さん(70)
は話す。
「治療を頑張りたいがん患者に医師がホスピスをすすめ、患者が傷つくこと
がある。患者と家族への理解を深めることの大切さに目を向けてほしい」

重ね手
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<事前指示書作成は3% イメージ描き普段から共有>

厚生労働省の2013年の[人生の最終段階における医療に関する意識調査]による
と、終末期医療について「家族と詳しく話し合っている」のは2.8%。
「全く話し合ったことがない」は55.9%にのぼった。

終末期1

自分で判断できなくなった場合に備え、受けたい治療を示す「事前指示書」に
約7割が賛成しているが、そのうち実際に書面を作っているのは3.2%。

終末期2
聖路加国際病院緩和ケア科部長の林章敏医師は「終末期の具体的な治療に
ついては考えたくないという人が多い」という。

病院で最期まで頑張りたい、ホスピスに入りたい、最期は家で過ごしたいなど、
イメージを持っておくだけで違うと林医師。
描いたイメージは家族と共有することが大切だ。
「テレビドラマやニュースで人の死に触れたとき、『こういう最期がいい』
『これはつらい』などと家族と話すようにするといい」と助言する。

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今回の終活事情は、終末期医療、特に末期がんの方々の事例紹介でした。
語弊がありますが、最近では、死期が予測され、比較的緩やかな死を迎える
ことが可能とされるがん患者さんの最期の看取りに関しては、医療現場から
の提案・相談などが理解され、一つの文化になる途上にあると感じます。

ただ、これが介護とその先の最期となると、まだまだ理解・コンセンサスを
得られるまでに至っていないと感じます。

医療と介護の歴史の違い、制度の違いだけでなく、本人と家族の意識がまだ
整理されていない、社会としての基本的なあり方・考え方もこれから議論が
重ねられていく状況・・・。
そう言えるかと思います。

それは当然、施設から自宅・在宅へを掲げる介護政策がはらむ問題とも重な
ります。

なお、こうした事情・状況などについて、わたしの別のブログ<介護相談.net>
の中で、上野千鶴子さん著の『おひとりさまの最期』を参考にしながら考える
『おひとりさまの最期』シリーズを投稿しています。
お時間がありましたら、こちらからチェックして頂ければと思います。

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