保育離職が増える?米国の保育事情とそこから考える日本の社会福祉事情

2016/6/14付日経夕刊に
「米の保育料、補助なく高額 仕事辞め子育て 増加」
というタイトルで、米国の保育に関するレポートが載りました。
以下紹介します。

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「保育園落ちた日本死ね」。
 こんな匿名ブログで日本では改めて認可保育所の待機児童問題が注目された。

一方、米国の親たちは保育所を巡り、別の悩みを抱える。

米国では国や自治体による運営費補助がなく、高額な保育料負担が家計を圧
迫しているのだ。

 シカゴ郊外在住の非営利団体職員ジェシカ・ピューターボーさんは長女出産
の少し前から保育所探しを始めた。
 米国では12週間の無給の産休が法律で保障されているのみなので、ワーキン
グマザーの多くは出産後3カ月で職場に復帰する
 ピューターボーさんも自宅と職場に近い保育所を数カ所見学し、産休明けに
空きがあったところに預けることを決めた。

 米国では民間企業や非営利団体が保育所を運営
 低所得層向けプログラムなどを除き、公費補助を受けた認可保育所は存在し
ない。
 このため親の勤務状況とは関係なく、空きがあれば原則、誰でも利用できる。
 入所は通年で受け付け、都市部の人気の高い保育所を除けば、職場復帰まで
に預け先を確保できるかどうかはタイミング次第だ。

 ピューターボーさんの場合、保育所が見つかり安心したのもつかの間、長女
がグループケアになじめず知人に預け替えることになった。
 次女が生まれた約2年後、別の保育所を試したところ、今度は2人とも元気
に通ってくれた。
 子供の性格や成長に合わせてケアを選べてよかったが、「給料の大半が保育
料に消えたのが痛かった」と振り返る。

米国保育所事情
※同記事の理療をそのまま転載させて頂きました。

子育てに関する調査・啓発団体「チャイルド・ケア・アウェア・オブ・アメ
リカ」によると、0~1歳児の保育料は年間4822~2万2631ドル(約52万~
242万円)、4歳児は3997~1万7842ドル。
 州により差があるが31州で州立大学の授業料より高い。
 全米一高額なワシントンでは、0~1歳児の保育料は2人親世帯の所得(中
央値)の14.4%に当たる。

 米国勢調査局によると、母親が働く世帯の保育料負担は1985年から2011年ま
での間で約2倍に増えた。
 調査機関ピュー・リサーチ・センターの分析では、18歳未満の子供のいる母
親の間で最近、専業主婦の割合が上昇傾向、同機関は「高騰する保育料が一因
である可能性がある」と指摘する。
 あまりに高額な保育料を払うより、仕事を辞め子育てを選ぶ母親が増えてい
るという説明だ。

 保育料を押し上げる主因は規制と人件費。
 規制は州ごとに異なるが、子供と保育士の比率、施設の大きさ、保育士要件
などが定められており、厳格にすればするほど、運営費はかさむ

 しかも多くの保育所は保育士の人材確保に苦心、待遇改善の動きが保育料の
上昇に拍車をかける可能性もある。
 保育所の事業支出のうち人件費は約8割を占める。
 しかし保育士の年収の平均は2万2310ドル、時給にして約11ドルと清掃作業
員より低く、離職率の高さにつながっている。

 メリーランド州にある「ファミリー・アカデミー・オブ・ベセスダ」は民家
を改築した家庭的な保育所だが、保育士の定着率の高さが自慢。
 保育士30人の大半が勤続6年を超える。
 昇給、代替保育士の常備といった配慮はもちろんのこと「よい資質の人を採
用し、やりがいを感じてもらえるようにするのがカギ」とリマ・カサス所長。

 一方、全米で700近くの保育所を運営する大手チェーン、ブライト・ホライ
ズン社は、地域に人材プールを用意するなど工夫するほか「保育分野でキャリ
アを目指す人に、優良事例を学び、所長などにステップアップする機会を提供
している」(ステファン・クレイマー社長)という。

 「良質なケアには費用がかかる」と全米幼児教育協会(NAEYC)のステ
ファニー・オルモア国際担当シニア・ディレクター。
 米国も保育士の待遇を改善しつつ、保育料の負担を抑えるという難題を抱え
ている。

子ども4
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<米国の保育料>
 米国では、自治体が提供する就学前プログラム、低所得世帯向けプログラム
以外の保育所の料金は高い
 個人宅などで小規模に提供される保育サービスは、保育所より1~3割安。
 Care.comによると、ベビーシッターは時給11~15ドル、住み込みで
食事や着替えなどの世話もするナニーの給料は経験や依頼内容によって週325
~800ドル程度。
 子供が病気のときは緊急のベビーシッター派遣サービスもあるが、時給15~
20ドル程度と割高になる。

子ども2

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なかなか海外の保育事情を知る機会がないのですが、珍しく、米国の事例が
取り上げられていました。

基本的には、自助努力を重んじるアメリカ。
しかし、膨大な軍事費などを考えると、保育などの基本的な社会的インフラ
事業には税金を投入してもよさそうなのですが、記事にあるように、結構とい
うか、やはり、というか冷たいですね。

保育士の賃金の低さも、ひどいですね。
日本の女性活躍社会も、ある意味では、保育料を負担するために働かざるを
得ない、働け、と言っているような側面もあり、アメリカと似た事情が感じ
られます。

それと比較すると日本がまだ比較的恵まれているかな、と錯覚してしまうの
は、どうもまずいです。
しかし、保育のために離職を選択するというのは、日本の事情と共通点も。
介護離職ならぬ保育離職、というわけです。

「自治体が提供する就学前プログラム」とはどういうものなのか、少し説明
あると良かったのですが、いずれ調べてみようと思います。

ちょっと話は外れてしまいますが、国民皆保険制度に基づく、健康保険・
医療保険では、日本は本当に自慢してよい国とつくづく思います。

実は私、6月2日に右大腿骨頸部骨折で手術・入院。
このブログを書いている今、急性期病院から、回復期病院へ転院する朝です。

通常の健保負担とは別に、高額医療費限度額や限度額適用認定などの制度もあ
りますし、後期高齢者ならば負担はより低くなります。(まだ前期高齢者です)

こうした、医療健康領域の社会福祉制度については、一つのモデルと言える
でしょうか。
とはいっても、実際には、膨大な赤字財政の元凶の一つでもあるのですが。

年金を含め、こうした社会福祉制度が、高齢者の優遇に流れがちで、現役世
代が受ける福祉のレベルとの間に著しい格差が生じている。
そうした事実は、しっかりと認識し、受け止め、これからどうあるべきかを
講じていくべきと思います。

こうした点で米国を見習う必要はありません。
そういえば、昨日読んでいた『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来
(広井良典著・2015/6/19刊)に、米国では、軍事費に次ぐ国家予算を投じ
ているのが、医療・健康研究分野だが、健康保険など国民の医療健康への支
援は非常に薄く、自己責任とされている矛盾を提示していました。

ということで、日本独自のモデルを作り、改善し、財政的にも不安のない制
度に高めていく。
そして、保育分野においては、現状を改革し、次世代を生きる子供たちの福
祉と教育に費用を投入していく。
財源は財源として、消費税などを明確に目的税化して充当する。

そした社会的な改善・改革の道筋を、本来、高齢者世代も付けている責務が
あるのですが、そこまでの優しさはないようです。
シルバー民主主義。
何が民主主義か、という感じです。

いよいよ18歳選挙権が行使される初めての国政選挙が迫りつつあります。
しかし、形式民主主義では、人口が少なく票も少ない若い世代が不利なのは
分かり切っていること。
それでも投票を!と呼びかけることに、違和感を感じてしまうのですが・・・。
(もちろん、投票はすべきなのですが・・・)。

高齢者世代は、そろそろ、次世代ファーストをスローガンに、先達としての
見識を示すべきでは、と入院中、つくづく思うのであります。
しかし、入院しているご老人からはそんな雰囲気や意識はまったく感じられま
せん・・・。

転院先でのリハビリ、まだ当分続きます。

海外保育所2

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