保育士の労働条件・環境改善に期待:個人加入が可能な職種別労働組合「介護・保育ユニオン」が発足
2012~2013年にベストセラーとなった『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』
(2012/11/19刊)の執筆者である、今野晴貴氏が、「介護・保育ユニオン」を
結成しました。
慢性的な介護士不足・保育士不足が問題になっていますが、その原因の最たるも
のは労働環境・労働条件の劣悪さにあることも、知られているとおりです。
保育の現場での虐待や死亡事故など保育サービスの在り方や保育士の厳しい労働
実態などが表面化されるのはごく一部です。
そうした保育現場の実態については、当ブログでも
『ルポ 保育崩壊』からシリーズや『「子育て」という政治』からシリーズで取り
上げてきています。
保育士が日々対している保育現場のこうした問題に、個人個人で事業主に対して
取り組むことは難しいですし、まして職場単位・事業所単位で労組を結成して交渉
することなど、恐らく考えられないでしょう。
また潜在保育士の、保育現場への復帰を期待する上でも、保育現場の環境や条件の
改善が不可欠です。
そうした実態を憂慮し、介護と保育両業界を一つにして、個人単位で加入できる
職種別組合を形成。
ひとりではできない交渉を、組合として行い、種々の改善を促し、専門職として
の権利、生きがい・働き甲斐を取り戻そうというわけです。
労組・ユニオン結成の経緯と目的、加入・連絡先などについて、今野氏自身が書き
2016年6月19日に配信した文章をネットで見ましたので、原文に忠実に、以下に転載
しました。
なお、介護士に関する部分は、ここでは一部削除し、別のブログ<介護相談.net>
で、同様の扱いで紹介しました。
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「ワタミだけではない。介護・保育でも労組結成 労組は何ができるのか?」
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
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6月16日、ワタミでユニオンショップ協定(特定の組合に企業の従業員をすべて加盟
させる組合と会社との約束)が結ばれたというニュースが報道された。
ワタミでは労働法違反や過労死事件が起き、労働環境が問題視されてきた。
権利行使の上で、労働組合は不可欠だ。
今回の労組結成はワタミの職場の改善につながるものと期待されている。
だが実は、今回のワタミのようにユニオンショップ協定を結ばなくとも、労働組合の
権利は行使できる。
ちょうど同日には、介護・保育業界で「介護・保育ユニオン」が発足した。
こちらは企業ごとではなく、介護・保育業界の労働者ならだれでも参加できる。
保育園や介護現場における人手不足や低賃金、利用者の虐待の問題が大きく取り上げ
られている。
介護・保育の分野でも労働法の権利行使を支える、ユニオンの取り組みの必要性は高
まっているのである。
とはいえ、労働法の権利を行使するための労働組合も、その活動内容はなかなか一般
にはわかりにくい。
そこで本記事では、労働組合(ユニオン)が、介護・保育の現場でユニオンがどのよ
うなことができるのかを解説しよう。
<どのような人が参加しているのか?>
まずは、介護・保育ユニオンのメンバーの職場の実態とユニオンに加盟した経緯を紹
介しよう。(介護士さんの事例は、ここでは省略します。)
◆保育士Bさん(20代、女性)の例
<保育のプロとしての仕事がしたい>
小学校の頃から保育士になりたかったというBさんは、2014年3月、短大を卒業し、
大手保育園での就職を決めた。
就職してみると、職場の理不尽さに驚いたという。
まず、サービス残業が当たり前だった。
早出や遅番のシフトの際にやらなければならない開園準備や閉園準備、毎月ある
夏祭りなどのイベント準備は残業申請ができず、当たり前のようにサービス残業
だった。
さらに園長からのパワハラがBさんを襲った。
強く当たられるので、サービス残業のことを問題と思っても言い出せなかったと
いう。
入社から5ヵ月目ごろから腹痛などが目立つようになり、同年12月に心療内科から
「適応障害」と診断された。
休みがちになったBさんに追い打ちをかけるように、園長はつらく当たった。
「あなたがいると迷惑だ」と何度も言われ、昨年8月、Bさんはついに休職。
11月に退職となってしまった。
4か月後の今年の3月、Bさんは、短時間勤務で保育士の仕事を再開すべく別の
大手保育園に赴任した。
ところが就労一日目、彼女は虐待を目にしてしまう。
園児を黙らせるために保育士が園児の口を手でふさいだのだ。
近くには、園長もいたが、まるで当たり前のように何も言わない。
彼女はこれでは続けられない、と怖くなり、彼女は3日目に退職してしまった。
それから悩んだ彼女は、やはり保育への思いがあきらめられなかった彼女は、
ユニオンに相談した。
今、彼女は保育園への申入れの準備を進めている。
「保育士は国家資格。しっかりした仕事をするためにもそれなりの処遇にすべき」。
彼女は記者会見でそう語った。
<労働法だけでは労働者は守られない>
Aさんの職場も違法がまかり通っていた。
法律を守ることは当たり前のことのはずなのに、それがなぜまかり通るのか。
すこし考えてみよう。
賃金の支払いを受けながら働くときに、私たちが使用者(会社)と就労場所、
仕事内容、賃金などの労働条件を決めるのが、労働契約だ。
同法によれば、「労働契約」は、
「労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべき
ものとする」(労働契約法第3条1項)
とされている。だが、実際には、使用者(会社)の方が働く側より強いのは明白だ。
たとえば、「残業をしてくれ」といわれて断れる労働者がいるだろうか?
あるいは、個人が「対等」に給与の交渉ができるだろうか?
そもそも交渉しようとしても、まともに取り合ってもらうことすらできないだろう。
実際には労使関係に「対等」はなり立っていないのだ。
違法状態がまかり通るのも同じ背景があってのことだ。
法律上の権利があっても、不利な力関係では「行使」ができないのだ。
AさんもBさんも、契約内容どころか、違法な点を会社に指摘することができなか
った。
違法なことすら、個人では解決できないのが現実である。
<労使の力の格差を埋める、労働組合(ユニオン)>
この使用者と労働者の間のこの「力の格差」を埋め、問題解決できる手段が労働組合
(ユニオン)だ。
会社には、労働組合との交渉に応諾し、誠実に交渉する義務がある。
無視することだけではなく、不誠実な対応を取ることも禁止されているのだ。
例えば、会社側は人事部長などの決定権限のある責任者が交渉に参加しなければ
「不誠実交渉」になる。
またユニオン側には、会社との交渉の経験や法的知識の豊富な専門スタッフがおり、
一緒に会社と交渉してくれる。
専門家が一緒ならば、会社から一方的に条件が決められることはない。
さらに、会社と組合の話がまとまらない時には、労働組合は争議のために団体とし
て行動することができる。
個人が会社に対して抗議を行う場合とは違い、この団体としての行動は「正当な
行為」として損害賠償の対象にならないなど、法的に保護されているのである。
ユニオンの抗議活動によって社会的批判が会社向けられ、その圧力で、問題解決
に至るケースも多い。
このように、個人では「対等」に会社と交渉することができない労働者にとって、
会社と対等に交渉するための「武器」となる法律が労働組合法なのだ。
労働法学の大家である西谷敏教授によれば、労働組合法の機能は次のようなものだ。
「団結権等を積極的に承認して、集団的労使関係を助成することによって、
個別的次元では形骸化しがちな私的自治を集団的次元で回復することである」
(西谷敏『労働法』)
「私的自治」とはまさに、個々人が市民社会で対等に契約関係を取り結ぶことである。
労働組合は、市民社会の対等や平等を保障するために労働側に与えられた「特別な
権利」なのだ。
<まずは相談を>
現在、多くのブラック企業には労働組合が存在しない。
だが、会社に労組がないからと、加入を諦める必要はない。
日本では企業別労組が多いが、法律上、企業別である必要はない。
繰り返しになるが、冒頭のワタミのように、会社全体で協定を結ぶ必要は必ずしも
ないのである。
介護保育ユニオンのように、個人からでもはいれる組合がある。
ぜひ労働組合に相談にして労働組合法上に定められた「対等交渉」の権利を行使して
ほしい。
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【介護・保育ユニオン:無料労働相談窓口】
HP:http://kaigohoiku-u.com/
TEL:03-6804-7650(受付:8時~22時:平日・土日祝)
メール:contact@kaigohoiku-u.com
◆総合サポートユニオン(関東、関西、東北)
03-6804-7245
info@sougou-u.jp
http://sougou-u.jp/
◆NPO法人POSSE
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
http://www.npoposse.jp/
◆ブラック企業被害対策弁護団(全国)
03-3288-0112
http://black-taisaku-bengodan.jp/
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ちなみに、このユニオン結成後の最初の活動として、
「結成発表と同じ日に、全国展開する大手デイサービス「茶話本舗」を展開する、
株式会社日本介護福祉グループへ団体交渉の申し入れを行った。」
ことをこの記事中で、今野氏は紹介しています。
ひとりでは想像もつかなかったことですが、組合が前面に立って、団体交渉を企
業サイドに要求できるわけです。
いままでどうしてよいかわからなかった方、どうしようもないと諦めるか、仕事
を辞めるしかないと悩んでいた方。
ぜひ、まずHPを見て、それから相談など行動を起こして頂ければと思います。
もちろん、組合への加入には、組合費の納入が必要になりますが、それは、ご自
身の労働条件の改善などに反映されるものとなるでしょうから、決して、無駄には
ならないものです。
(そう高額ではないはずです。)
それらの不明点についての質問を含め、思い切って行動してみてはいかがでしょ
うか。
なお、当然のことながら、事業規模が大きい企業は、みずから自社内で労組を
形成することを経営サイドが主導して進めることを推奨したいと思います。
いま、大きな業界を形成する流通サービス業の多くは、チェーンストアですが、
日本のチェーンストアの発展の歴史の中で、当初から業界あげて、労働組合を形成
しその条件・環境の整備拡充に労使で協力し努力してきたことをお伝えしておきた
いと思います。