少子化の複合要因を真因化することは学者にできるのか?:日経<少子化対策に何が必要か>(2)

日経【経済教室】欄で、2016/8/16から3回連続で
「少子化対策に何が必要か」というテーマで、3人の学者が小論を展開しました。
順に、紹介しています。

第1回は、駒村康平慶応義塾大学教授による
「思い切った財源投入急げ、保育士賃金や教育費支援」から
少子化対策の本気度は、子ども関連社会支出政策で示せ

今回は、第2回(2016/8/17掲載)で以下の通りです。
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Ⅱ「長時間労働是正こそ王道、米・北欧型の解決策は困難」:筒井淳也立命館大学教授
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 2015年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの推計値)は1.46で、最低を
記録した05年の1.26から0.2ポイント回復した。
 25~29歳の出生率も上昇に転じたため、この動きは直近の経済の好転や両立支援制度
拡充の成果といえよう。

 しかしこの数値は、安倍政権が25年までの目標として掲げる1.8には遠く及ばない。
 また出生率を回復させた諸外国の数値、例えば米国の1.86、スウェーデンの1.89、フラ
ンスの1.99(いずれも14年)とも大きな開きがある。

 少子化対策といえば、自民党が参院選の公約に掲げた「保育の受け皿50万人分拡充」
「保育士の待遇2%改善」など、仕事と家庭の両立を可能にする保育サービス関連の政
策に注目が集まる。
 もちろんこれらは必要だが、本稿ではもう少し広い視野から、諸外国との比較を通じ
てみえてくる課題を明らかにしたい。

 米国やスウェーデンを含む先進各国で、人口置換水準(現在の人口規模を維持するた
めに必要な出生率=2.07)を下回る出生率低下がみられたのは1980年前後だった。
 この時期には男性失業率が大幅に悪化、70年代までに各国がつくり上げてきた「男性
稼ぎ手」モデルが機能不全に陥り、家族形成の困難が生じた。

 ただその後、各国の出生率の動向は分かれる
 米国とスウェーデンでは出生率が回復したが、日本、ドイツ、イタリアでは回復せず、
極端な低出生率の段階に突入した。
 この分岐を説明する要素の一つが「共働き社会化」だ
 すなわち不安定化する男性の雇用を女性の雇用が補完することでカップル形成が促さ
れた国と、男性稼ぎ手モデルを存続させた国で明暗が分かれた。

 日本でも女性の労働力参加率は70年代後半以降、恒常的に上昇している
 ただこれは、働き続ける独身女性の増加と有配偶女性のパート労働市場への参加によ
り説明できるもので、女性が長期的に雇用され、安定した所得を継続的に得る見込みは
依然小さい。

 少子化を克服した国はいずれも、女性の雇用継続が可能で、男女賃金格差も小さい
 これらの国では、結婚・出産に伴う就業継続の困難を引き下げることにより、これま
では世帯形成にとってマイナスと考えられてきた女性の稼得能力のプラスの効果を引き
出すことができた。
 図は、共働きカップルの比率と合計特殊出生率を、データが入手できた国について示
したものだ。
 日本と米国のデータは得られなかったが、総じて正の関係にあることがみてとれる。



 女性にとっては「結婚すると仕事を続けにくくなるから結婚しない」という状態が、
「自分も稼ぎ続けるからこそ結婚も出産もできる」という状態にシフトしたといえる。
 男性にしても、結婚したら家庭に入る女性を探すのではなく、むしろ不確実な社会で
生き残るために稼ぐ能力のある女性を探すようになる。
 実際、日本でもこの傾向がみられ始めたことを、国立社会保障・人口問題研究所の
福田節也氏が実証研究で示している。

 女性の稼ぎが世帯形成にプラスの効果を持つには、両立に伴う問題を回避する必要
がある。
 多くの政府が「少子化対策といえば両立支援」という方針を掲げているのは、この意
味で合理的だ。
 しかし、ただ単に育児期の公的支援を実施すればよいだろう、という話では決してない

 最大の問題はコストだ。
 保育サービスは効率化が難しく、技術革新がそのコストを大幅に下げるわけではない。
 そして皮肉なことに、保育サービスを必要とするフルタイム・高収入の女性が増える
ほど、こちらも主に女性が従事する保育サービスのコストが高まる。
 働く女性の賃金に連動して保育労働者の賃金も上げない限り、他の仕事が選ばれると
いうジレンマがある。

 保育コストの問題は、どの国にとっても宿命的に付いて回る課題だ。
 そしてその「解決法」も様々である。

 米国は保育サービスへの公的支出はほぼないが、女性は早々に職場復帰し、カップル
は共働きで得た収入でナニーやベビーシッターを雇い入れる。
 大量の移民労働者がケアワーカーとして雇用されている。
 共働きホワイトカラー層と、移民労働者の賃金格差のために、保育コストが比較的安
価に抑えられることで可能になるシステムだ

 国内外の賃金格差が大きい場合、保育サービスを市場から調達するという選択肢が現
実的になる。
 戦前の日本でもこうした傾向はみられたが、戦後の高度成長で全体的な所得水準が向
上する中で、家庭に入る保育労働者の市場は大幅に縮小した。

 公的セクターが前述のジレンマを解決しているのが北欧諸国だ
 まず保育サービスを公的に提供することで、ケア労働者の賃金を市場賃金と連動させ
つつ、家計の保育料負担を軽減できる。
 次に大量の女性が公的に雇用されることで、民間セクターの場合と違い、女性の就業
中断が男女賃金格差の拡大をもたらす圧力を緩和できる。
 このため保育コストを大幅に引き下げる一方で、その後の所得に悪影響を及ぼす可能
性のある育児休業の取得が促される。

 要するに、国内外の賃金格差が十分に大きい、あるいは公的セクターのサイズが十分
に大きいといった条件が、米国やスウェーデンなどの出生率回復国には備わっている。
 このいずれも日本にはない。

 日本は移民のストックも外国人労働力のフローも経済協力開発機構(OECD)加盟
国では最低レベルだし、公的雇用の規模もOECDでは最低レベルだ。
 しかも公的雇用に占める女性の割合も極めて低い。
 この状況では、育児サービスの拡充も両立支援制度の充実もなかなか進まない。

 格差と公的雇用という2つの要素は、少子化対策の文脈ではあまり注目されないだけ
に、改めて日本が置かれた不利な状況を確認することは重要だ。
 日本はかなり重い足かせをはめられた状態で、出生率向上という難しい課題に取り組
まねばならない。
 本気で課題をクリアするには、思い切った政策介入が不可欠だ。

 以上の考察から引き出されうる対策は、公的雇用の拡充だ。
 競争圧力が小さい公的雇用は、日本を含めたどの国でも、就業中断を経験しやすい女
性の安定したキャリア形成にとって魅力的な選択肢だ
 とはいえ、深刻な財源難という状況下では合意を得られる可能性は低いだろう。

 両立支援という王道に戻れば、喫緊の課題は長時間労働の是正だ。
女性の継続雇用を
阻害しているのは、貧弱な保育サービスに加えて、女性が「活躍」し
ようとした途端に
「妻のいる男性」と同様の働き方を要求されることだ

 従って一刻も早く、労働時間の上限規制を、抜け道を塞いだ仕組みで設ける必要がある
 同じく出生率を回復させたフランスでは、女性の社会進出は、男性の働き方改革とセ
ットで進められた。

 ただ副作用もある。
 企業に上から働き方の条件や規制を課すことは、経営のハードルを高めることでもある。
 日本では労働時間の規制にしても両立支援の義務化にしても、個々の企業に負担をか
ける政策は避けられる傾向にある。

 その意味では「企業を通じて雇用を守る」という現状の方針から、基準を守れない
(経営に余裕のない)企業は退出してもらう代わりに労働者は公的に保護するという欧州
的な方針へと、転換する時期に来ているのかもしれない。

 

 

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非常にデリケートな言い回し、表現の論述となっています。

少子化対策。
あまり有効かつ確実な手立てが見いだせない・・・。
そう結論付けているかのように、読みようによっては思えるんですね。

最後のまとめ方などが、雇用の流動化に賛成する勢力に悪用されそうな危険性さえ感じ
ます。

私は、筆者が、「深刻な財源難という状況下では合意を得られる可能性は低いだろう」
としている、「公的雇用の拡充」という選択肢を取らざるをえないのではと考えています。

私が、これまで、「保育士や介護士の準公務員化」と表現しているものです。
現実的に、このところ、賃金レベルの引き上げのために、どちらにも補助金を支給する
政策を進めています。
それが、確実にそれぞれ個人に行きわたっているかどうかの問題があるのですが、賃金
の一部に補助金を充当させる政策は、公務員的にその仕事を見なし、処遇する性質を持ち
ます。
ならば、準公務員という概念を導入し、新たな賃金体系やキャリアプランを整備するの
です。
その賃金補給を受ける、介護施設・介護事業や保育施設・保育事業は、準公営的なもの
とみなす。
詳細は、検討を要しますが、概念として、以上のようなロジックで政策・制度を構築す
るのです。

大きい政府・行政となり、コスト問題が一層拡大しますが、そこは、全体的に高福祉
高負担政策への大転換に踏み込んで、構造改革を行うしかないのではと考えます。

筆者が、やむなく選択している企業責任主義と、企業の自然淘汰を促す自由資本主義
自体が、現状大きな格差を生み出す元凶となっていることを考えるとき、企業責任論
による方式では、少子化改善は夢想に過ぎないことは明らかでしょう。

守られない雇用により流動化され、失業した人を公的に支援するよりも、前回の主張で
ある若い世代への社会支出に重点を置くべきなのではないでしょうか。

結局のところ、全体を通しては、長時間労働をなくし、働き方を変えること。
そう結論付けているかのようでは、とてもとても少子化対策に切り込んだことにならず、
隔靴掻痒にさえならないような気がしています。

結局、少子化の多様な要因を列記し、これが決め手、という結論は出せない、出さない
研究者・学者。
この分野で、政党の政策立案スタッフに適切な専門家は、未だ見ることができないのが
寂しいですね。

筒井淳也立命館大学教授は、期待の若手学者なのですが、
仕事と家族 – 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』も
結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』も、個々の主張や視点は理解できるもの
でしたが、全体を通していま一つインパクトがなかったのと同様に、この小論でもキレ
不足を感じた次第です。

とは言っても、だれがやっても一朝一夕で改善・解決できる課題でないことは間違い
ありません。

 

 

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