育休延長、賛成・慎重論の前にあるべき、人としての生き方、社会の在り方

イクメン、イクボスと育児休業制度と関連する課題を男性の家事・育児分
担責任論の視点で、ここ数回取り上げてきました。
そこで、この育休制度を巡る法律上の課題、育休延長問題についても数回
引き続き考えてみることに・・・。

1回目は、日経の女性論説委員辻本さんの一文を紹介し
育休延長、本音と建て前。当事者の思い・思惑にどう対応するか:育休延長論を考える(1)
で問題の視点を確認しました。
加えて、その問題提起よりも遡って、2016/9/5と同9/6両日日経夕刊に
掲載された「育休延長の波紋」という特集を用い、事例を含め、もう少し突っ込
んで考えます。

前回分は、こちら
早期復職を前提とした企業努力、個人の思いとずれる政府の思惑

今回は、以下の9/6付分です。

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 育休延長の波紋(下):賛成派・慎重派に聞く
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育児休業制度が法制化され、四半世紀がたとうとしている。
子育てしながら働ける環境整備に育休は大きく寄与した。
だがなぜ今、育休の延長が議論されるのか。賛成派と慎重派のそれぞれの意見を聞く。

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山崎孝明東京都江東区長:申込時期分散、待機減る 

<Q1>:育児休業の延長を強く説いていますね。

<A1>:
 「4月に厚生労働省が待機児童の多い自治体の首長を集めて緊急会議を開いた。
 そのときに育休期間の延長を提案した。保育コストは子どもの年齢が幼いほど
高くなる。例えば江東区では0歳児1人を保育園で預かるのに約40万円の公費を
かけている。育休を長く取れれば0歳や1歳の保育ニーズは減る。その分の予算
や保育士を有効配分できれば保育の受け皿も増やしやすくなる」

 「理想は育休3年。原則1年の現状の仕組みだと、子どもが1歳になった時点
で保育園に入りにくいので0歳時点の年度初めに入園申請が集中している。
 申込時期が分散すれば待機児童も減る

<Q2>:待機児童の解消は行政の役割ではないのですか

<A2>:
 「江東区はここ10年で99カ所保育園を整備した。毎年1000人分の枠を増やす
計画も立てている。だが今年4月1日時点の区の待機児童数は277人に増え、
過去最多レベル。今年度も公園用地を使って新設するなど1000人分を確保した。
 でも新しくつくっても新たな利用ニーズが生じ、待機児童は減らない
 自治体としてやるべきことはやっていくが、子育て社員を雇っている企業も、
相応の責任を負うべきだ」

<Q3>:人口が減っていくなかで女性活躍推進は日本の将来に欠かせない。
     育休の長期化はキャリア形成を妨げ、女性の活躍推進に逆行すると
     いう指摘もある。

<A3>:
 「確かに今後日本で女性の活躍は欠かせない。働きながら子育てできる環境を
社会が整える必要もある。ただ私の考え方が古いのかもしれないが、子どもの
成長に母親は大切女性活躍よりも、子どもをしっかり育てることの方が日本の
将来には重要だと思う」

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 女性活躍よりも、子どもをしっかり育てることの方が日本の将来には重要

こう断言している人と議論することは意味をなさないですね。
「考え方が古い」と言っていますが、古い・新しいという問題でもありませ
ん。そもそも、比較してどうこうという問題ではないですから。

「待機児童解消は行政の役割」と言うのも、地方行政だけでなく国の行政・
政治の責任の問題であり、広く社会の要請でもあるといえます。
地方行政は、その代行業務を担っていると考える方が適切でしょう。

その保育コストは、国全体、社会全体で担うべきと考える必要があります。
特に、少子化、人口減少社会を国レベルの課題と捉え、政策の必要性を共有
化するならば、一層そう言えます。

そのコスト負担は、成長成人後の税負担によって、回収・解消されるはず。
また、医療・年金・介護等保険料負担者として、先行する世代の生活を支え
る存在ともなるのですから。

その地方自治の首長の考え、思想としては行政の根幹を見落としたものと
言えるでしょう。

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大内章子関西学院大学准教授:男女の能力差、開く恐れ

<Q1>:育休の長期化はキャリア形成に影響しますか?

<A1>:
 「ビジネス環境の変化は著しい。少しの間でも技術や組織はすぐに変わる。
 長期間休めばスキルは陳腐化し、仕事での貢献が難しくなる」

 「厄介なのは、子育て期が組織の人材として能力が伸びる時期と重なること。
 就職後に一通り仕事を覚えて『さあ、これから』という年齢で女性は結婚・
出産を迎える。本来なら脂が乗りきって仕事で成果を上げられる時期に育休で
ブランクが生じると、実際に休業した時間的な長さ以上の差が男女につく」

<Q2>:育休の取得可能期間を延長しても、どの程度休むかは個人の選択。
     働く女性全体に影響はないのでは?

<A2>:
 「育休は男女にかかわらず取れる権利だが、事実上、妻が圧倒的に取得して
いる。こうした性別役割分担を背景に生じる間接的な影響は女性全体に及ぶ。
 長期の育休を取る可能性がある女性と育休を取る可能性が低い男性。
 会社はどちらを大切に育てようとするか。人材育成投資が無駄になるリスク
が低い男性を優先的に育てる。育休が延長されたら、成長につながる仕事は
男性により配分されるようになり、結果的に男女の能力差が今より開く恐れ
がある」

<Q3>:女性活躍を進めるためには、仕事と子育ての両立環境を一層整える
     策が必要ではないか。

<A3>:
 「低年齢児にかかる保育コストと人手を考慮すると、待機児童対策として
育休を延長しようという主張も理解できる。でもその場合、夫婦それぞれに
1年ずつ、合計で子どもが2歳になるまで取得できるようにするなど、女性
だけに負担が偏らない制度を考えるべきだろう。女性の活躍推進を本気で実現
したいなら、仕事に全く関わらない期間をできるだけ減らす工夫が両立支援に
は必要だ」

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大内准教授の発言も、どちらかというと、一面的で、そういう女性もいるし、
そうでない女性もいる。
個人差があり、職種による違いがあり、企業により異なる事情もあります。
ライフイベントの時期、タイミングにも個人により違いがあるはずです。

また保育コストを認め、かつ、人財育成投資と言いつつも、結局コストとみ
ることで、無難な男性優先化が存在することも指摘ている。

結局、ここでは、キャリア形成という問題についての、女性個人と企業との
関係でのみの議論となり、社会としての在り方や、女性の一生についての人間
的な視点からの議論が希薄になっています。

国が力を入れようとしている女性活躍、労働力人口減少を補う女性の就労、
経済の成長性を維持・持続させるための女性の労働参加・・・。
むしろこれらの課題を正面に受け止めるならば、育休延長慎重論も、特定の
企業との関係性よりも、社会との関係、社会における女性、そして人として
仕事と、個人の生き方、夫婦としての在り方、家族の在り方の両立・実現を
課題として論じることも必要と考えます。

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 2人の議論を受けて、記者は、以下のようにまとめていました。

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やさしいばかりでは両立しない

女性活躍推進を掲げながら、ときに政府はちぐはぐな一面をみせる。
 2013年にも「3年間抱っこし放題」を掲げ、3年育児休業の自主的な導入を
経済界に求めた。
 だが女性の反発もあり、立ち消えになった。
 待機児童は今年4月1日時点で2万3553人と2年連続して増えた。
 育休延長は0歳児の保育園利用を抑える効果などが期待できる半面、副作用
も考慮しなければいけない。

 英国の社会学者キャサリン・ハキム氏は女性を
1)仕事型
2)家庭型
3)適応型
に分ける。
 1)と2)はそれぞれ仕事や家庭が最優先。
 仕事型は男性優遇の職場でも全力で働き、家庭型は仕事のチャンスをお膳立
てされてもなびかない。
 両タイプは女性の2割ずつを占め、残る6割が適応型。
 彼女たちは経済環境や法制度に応じて仕事重視にも家庭重視にも行動形式を
変える。
 ハキム氏の理論を借りれば育休延長は女性の多数派である適応型を家庭へと
誘導する
 女性にやさしいばかりでは女性活躍推進は遠ざかる。

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保育・教育は、社会・国を挙げて取り組むべき政治・行政責任事業。
そのコスト負担は、成長成人し、納税義務者、保険料負担者として過去の
コスト以上の社会貢献を期待しての先行投資であること。

その根本を再確認し、そのための社会制度・社会システムを整備構築する
ことが待機児童対策を含む子育て・保育政策。

成人であり、子の親である母と父が働くことも、保育・教育制度政策の
実現・遂行に必要なコストを、可能な税負担で分担する機能を持つもの。
年金や介護にかかるコストに対しては保険料納付で、同様に。

女性の就労は、女性が活躍することを根本的な目的とするものではなく、
社会人としての役割を果たし、国民・住民としての責任を果たすための機能
を持つものでもあります。

その基本をしっかり認識し、加えて、当然のこととして、個人や夫婦・家
族の生活の維持と幸福な暮らしの実現、一人の自立した人間としての自己実
現のための就労であり、育児・介護などとの両立の課題が並立してあること
を確認しておくべきと考えます。
個人差、多様性を認めつつ、自由に選択することができる社会として・・・。

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