保育士給与の官民格差是正は、私立保育所保育士の準公務員化と公務手当で
保育士の人材不足の大きな要因である賃金レベルの低さ。
その改善方法、政策について、私見をこれまでにたびたびこのブログで述べてきて
います。
ただ、全業種の平均賃金と大きく異なる低賃金は、私立保育所に限ったものであり、
公立保育所の保育士は、公務員として、恵まれた賃金を支給されていることは、あま
り語られていませんでした。
ようやく、その問題を、2016/11/23付日経でレポートしていましたので、以下、紹介
します。
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保育士給与 公立>私立 待遇改善、議論の課題に
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厚生労働省がまとめた保育所の実態調査によると、公立保育所で働く常勤保育士の
月額給与は私立を約3万円上回った。
ベテランの主任保育士では公立・私立の給与差が約7万円に上った。
政府が目指す保育士の処遇改善策では、官民の格差をどう改善するかも課題になる。
中間調査では公立保育所約200カ所、私立600カ所の給与実態を分析し、結果を11月
中にも公表する見通し。
月20日以上、1日6時間以上働いている常勤保育士の場合、賞与を含めた月平均の
給与は公立で約29万円、私立で26万円だった。
ベテランの主任保育士は公立で44万円、私立で37万円とさらに差が広がった。
一般産業界のフルタイム労働者の平均月収は約40万円で、公立の主任保育士はこれ
を上回っている。
保育士不足の原因として給与の低さが指摘されるが、私立の保育士向けの対策を急
ぐ必要がありそうだ。
格差の背景には保育所への支援の違いがある。
公立は自治体が運営し、一般財源で運営費の半分以上を賄っている。
保育士の給与水準も自治体の公務員と同等の扱いになる場合が多い。
私立は自治体に認可された社会福祉法人などが運営している施設だ。
国や自治体から補助金を得て運営している。
補助金は国が定めた「公定価格」を基準にして支払われ、人件費もおおまかにこの
価格が適用される。
今の基準では保育士に十分な賃金を支払えないという指摘もある。
自治体によっては私立が保育士不足で悩む一方、給与の高い公立の保育士試験には
募集定員の数倍が応募するケースもある。
厚労省は来年度に保育士の賃金を2%上げ、職務経験によっては月額4万円を上乗
せする方針だが、官民差は簡単には埋まりそうにない。
日本総合研究所の池本美香主任研究員は「私立保育所では勤続年数11年で処遇改善
が頭打ちになる。私立でもベテラン保育士のキャリアアップの仕組みが必要」と。
賃上げ手法では公立、私立とも似通っている。
12~15年度の合計の賃上げ率は公立、私立とも約10~15%。
同じ期間に厚労省が7%の賃上げ分に相当する助成金を支給したが、これを上回る。
内訳をみると、私立の一般保育士の場合、ボーナスなどを示す「一時金」は約40%
増えたのに対し、月給にあたる基本給と手当の改善率は10%程度にとどまる。
公立でも傾向は同じだ。
保育士にとっては固定給である月例給与が上がった方が生活の安定につながる。
ただ保育所側は「補助金がいつカットになるかわからない」などの理由から、月例
賃金の大幅アップに慎重なのが実情だ。
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保育士や介護士の賃金レベルの引き上げのために公費を補助金や助成金として、事業所に
支給する。
それが、間違いなく専門職職員ひとりひとりに公正に渡っているのかどうか・・・。
その疑問や問題を改善・解決するには、ひとりひとりの給料明細に、公費部分を別賃金
項目を設け、公的業務手当として明示すべきです。
そして、その給付は、一時的なものではなく、継続して支給することを保証する。
処理方法としては、例えば、国または自治体が認めた保育士資格手当として、公営・民営
どちらの保育所であっても共通の項目、共通の基準で定め、そこに経験年数の要素を加味し
て体系化した金額とします。
その手当額が、公営と私立との差額を埋めるという位置づけになります。
私立では、独自の基準で基本給と能力給などを組み立て、それに上の手当を加算します。
その合計額が、公立勤務の保育士の給料とどの程度差があるか。
その差を、個々の事業者が、経営努力と方針により、埋めていくことになります。
一方、経験を積んだ保育士のキャリアプランとして、主任や園長など管理者的業務に就く
コースの他、保育士としてのスキルの評価による等級運用に加え、介護士や看護師、社会福
祉士、教員など、他の社会福祉領域の専門職資格の取得やそれらの業務の担当、異動配転、
職種選択など多様なコースを用意し、昇給や昇格する総合専門職制度を構築します。
それは、保育士としてのみ長期間就業するだけでは、給与は、一定レベルで打ち止めとす
る制度の導入も視野に入れるものです。
また、こうした公務手当制度の導入で、問題がある私立保育所に、公務員保育士や主任、
園長が、出向・派遣され、保育サービスの質の改善・向上や保育事業の安定化などに、積
極的に関わっていくことも考えられます。
厚労省が、官民格差を問題と認識したとしても、自らは改善・解決する方式を示さず、
民の主体性に任せるのみでは、盛んに種々の手を打っている大手企業のシェアが一層拡大
することになるでしょう。
大手企業は、今後も、保育士確保のための経営努力を継続し、次第に賃金を引き上げていく
とは思います。
それはそれで厚労省としては歓迎するでしょうが、それができない、しない、中小事業者・
事業所をどうするか・・・。
一つは、大手企業がそれらを買収・合併する形。
他は、公立化する形。
簡単に二者択一とすることができればいいのですが・・・。
その気構えが厚労省・政府になければ、従来通り、問題提起するばかりか、補助金をあくま
でも補助金として、つぎ込み続けるか、断続的に支給するか・・・。
これでは、何も変わらない・・・。
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保育政策・制度の抜本的な改革が必要。
その認識を広め、望ましいありかたを考える【保活・保育】カテゴリー。
その問題提起と、方針・方向性を考えるヒントとして、近刊の3冊の書
『フランスはどう少子化を克服したか』『世界一子どもを育てやすい国にしよう』
『保育園義務教育化』を紹介しながら、望ましい制度・改革の方策を継続して考えて
いきます。
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<『フランスはどう少子化を克服したか』より>
第1回:衝撃の実態・制度を、仏在住日本人ママが体験調査レポート
第2回:日仏の保育政策・制度の違いは、子育てに対する認識の違いにあり
第3回:親だけで子供を守り育てることはできないと考える仏社会
<『保育園義務教育化』より>
第1回:絶望の国の「お母さん」にしない、ならないために
第2回:待機すれば入園できるのか?お母さんを虐待する待機児童問題
第3回:「一人っ子政策」を進めているかのような日本の少子化対策の怪
第4回:少子化を克服したフランスの経済学者ピケティも不安視する日本の育児と少子化
第5回:子どもの数よりも猫と犬の数が多い現実
第6回:義務教育の早期化は世界的な潮流
第7回:共に教育を提供する保育所と幼稚園から導く、義務教育化保育園
第8回:保育園義務教育化は「未来への投資」。社会福祉の世代間格差も考える
第9回:母親と子どもとの個体分離。片手落ちのお母さん擁護論の幼児性
第10回:炎上させる人間自身の親や子としての在り方を問い返すべき
第11回:家族資源が希薄な時代の「お母さん」の産後ケアのあり方
第12回:子どもを産み育てる親の覚悟と、それを支える社会の覚悟
第13回:養子縁組の少なさよりも人工妊娠中絶の多さが大問題
第14回:母乳であろうと粉ミルクであろうと、母子共に健康であれば良し
第15回:粉ミルクならできるイクメン哺乳瓶授乳体験
第16回:両論併記は選択の自由の証。母乳派・粉ミルク派・折衷派みんなそれぞれお母さん
第17回:イクメン、イクボスの広がりは、男性の育児時間を劇的に増やす?2016年社会生活基本調査10月20日
第18回:子育てに悩むお母さんを支える公的支援システムを!
第19回:少子化対策・保育制度・子育て支援・教育制度。一気通貫で子どものための社会改革を
第20回:児童虐待・育児放棄・児童遺棄。社会がその撲滅に責任を
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◆:保育所開設中止に追い込む周辺住民の反対。その責任は行政に:日経「保育の課題」(中)から
◆:問われる保育事業者の質、保育サービスの質。保育所は公営を原則に:日経「保育の課題」(下)から
◆:都の保育所政策、小池色は未だ不鮮明:各区の取り組みと都政策との連携はどうなる?
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