今後も増える、公的資金投入済み民間保育事業の買収:純粋な民営ではない事業売却への疑問
◆待機児童解消は規制緩和で:ミニ保育所、特区で年齢制限緩和。企業主導型保育所は税制改正で優遇
◆待機児童解消は規制緩和で(2):「空きビル保育所」承認の裏表事情。規制緩和の本質を考える
◆待機児童解消は規制緩和で(3):「企業主導型保育事業」拡大で、やっぱり企業頼み
と3回シリーズで、待機児童解消策の現実的対策としての保育所開設に関する方向性をおさらい
しました。
とにかく、施設を増やせという号令がかかっており、民間・企業の関与度がますます高まりつつ
あるわけで、2016/12/16付日経で、その例が報じられています。
不動産事業者の参入。
以下紹介します。
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双日、保育所に参入 運営会社買収、都内中心に
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双日は12月15日、保育所の運営事業に参入すると発表した。
グループの双日総合管理(東京・港)が保育所の運営を手掛けるアンジェリカ(東京・目黒)
の全株式を12月中に取得する。買収額は非公表。
双日が開発するマンション内に設置するなどし、東京都内を中心に年間数カ所ずつ増やす方針。
待機児童問題が深刻になるなか、安定した利用を見込む。
2004年設立のアンジェリカは現在、東京23区で国の基準を満たす認可保育所9カ所、東京都の
独自基準に基づく認証保育所6カ所を運営している。
従業員は約360人。国や都からの補助金を受けており、安定した経営が見込めるという。
双日は子会社の双日新都市開発を通じ、マンション開発や不動産売買を仲介している。
不動産情報のネットワークを活用し、アンジェリカが保育所を新設する用地を確保する。
ビルやマンションに保育所を設け、利便性を高める方針だ。
帝国データバンクの5月の調査によると、保育所の運営主体は全体の86%を社会福祉法人が占
めており、株式会社・有限会社は7%にとどまる。
今後は政府の掲げる保育所拡充政策に対応し、民間企業の参入が増える可能性はある。
大手企業では資生堂が11月、保育事業に参入すると発表した。
保育サービス最大手のJPホールディングスと組み、事業所内保育所の設立支援や運営受託を
手掛けていく方針だ。
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介護も保育もどちらも、本来社会福祉的な事業であり、理想は公立で運営されることと
考えます。それが、介護においても保育においても、どんどん民営化、企業化する方向に
働いている。国策として。
しかし、ほとんどが、純粋な私立・民営とは呼べず、介護事業においては介護給付が、
ずばり収益源そのもの。施設建設では助成金がでて、職員の賃金引き上げにも補助金が
出る。
その仕組みがあるからこそ民間からの事業参入意欲を喚起し、M&Aの対象ともなる。
要するに、税金などの財政出動を基盤の一つとしての事業化だけに、民間活力と呼べる
のかどうか、疑問があります。
介護事業に参入し、M&Aを進めて業界大手になった損保ジャパンHDのトップは、介
護分野を成長産業と表現しました。
公的資金を得ての事業拡大をもって、成長産業と呼ぶか・・・。
記事中の文にも「国や都からの補助金を受けており、安定した経営が見込める」と、あ
る意味、露骨に、正直に表現している・・・。
どちらかというと「たかり」に近い感覚に思えてしまうのですが、ひねくれ過ぎでしょ
うか。
売却して得た資金そのものが、そうした公的資金の一部が資産化して残されたもの。
そこにも、何とも言えぬ気持ちが残ります。
経済合理性だけでの投資先とならぬよう、子どもの養育・成長等、保育事業の望ましい
在り方を追求しての事業であって欲しいと、心から願います。