高度成長期の「豊かな家族生活」から、低成長期への反転で晩婚・未婚化へ?:日経<家族の衰退と消費低迷>から(3)(4)
2016/11/30から日経【やさしい経済学】欄で、山田昌弘中央大学教授による
「家族の衰退と消費低迷」と題した小論シリーズが掲載されました。
今年2017年は、家族と結婚というカテゴリーにも力を入れることを考えており、
軸とする新書も今、準備中です。
その前に、上の小論連載記事を紹介します。
第1回:現代の家族の変化と社会と経済との関係を読む:日経<家族の衰退と消費低迷>から(1)
第2回:戦後家族モデルの絶対化への疑問:日経<家族の衰退と消費低迷>から(2)
今回は、第3回/第4回、2回分をまとめて紹介します。
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(3)「豊かな家族生活」が巨大需要に (2016/12/2)
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「夫が主に働いて妻が主に家事で豊かな生活を目指す」という戦後型家族。
これが住宅から家電、自動車、生命保険、レジャーに至るまで、あらゆる産業の前提条件となり
ました。
目指す家族の中身は、1950年代の欧米の中産階級家庭です。
LDK仕様の住宅に住み、家電製品がそろい、車があり、主婦が手料理を作り、子どもに学歴を
つけさせ、家族レジャーをする生活です。
中流生活に必要と思われるアイテムをそろえることが家族の目標となり、消費は家族でするもの
となったのです。
当時は住宅すごろくと呼ばれたように、狭いアパートや社宅からマンション、最後には一戸建て
に住むことが目指されました。
より広く快適な住宅を求める核家族の存在が、住宅メーカーや不動産業界を潤しました。
マイカーを持つことが豊かな家族のシンボルになり、住宅と同様に、より上位の車に買い替えて
いくことが目指されたのです。
豊かな生活の象徴は家電新製品です。
テレビやステレオは一家に一台。そしてクーラーやカラーテレビ、電子レンジなど新しい家電製
品は、中流家庭なら必ず備えるものとして提案されました。
それを順番に買いそろえていくのが家族の豊かさだったのです。
家庭料理が普及するのも戦後です。
専業主婦が手間暇かけ、家族のために手料理やお弁当を作る習慣ができました。
それで新しい食品の需要が生じたのです。
レジャーも家族でするものとなりました。
戦前は庶民の楽しみは季節ごとの祭りくらいしかなく、富裕層は旦那も奥様も別々に遊びに行く
ものでした。
休日に家族そろってデパートや遊園地に行き、たまには家族旅行もするようになったのは戦後の
習慣です。そのため、デパートや遊園地が各地にでき、子連れ夫婦でにぎわうことになります。
終身雇用のサラリーマン家庭の最大の心配事は、一家の稼ぎ手である夫が亡くなることです。
そのために生命保険が用意され、大多数の家族が加入しました。
このように高度成長期には、豊かな家族生活をつくろうとする巨大な消費需要が生まれ、それを
満たすために産業が発展するという好循環があったのです。
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(4)低成長で晩婚・未婚化進む (2016/12/5)
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戦後日本の家族の目標が「豊かな家族生活をつくる」から、「豊かな家族生活を維持する」に移行
した時に、日本経済の転機が訪れることになります。
1973年にオイルショックが起き、74年にマイナス成長となり、経済の高度成長が終焉します。
それは同時に、すべての人が戦後型家族をつくることができる時代の終わりを意味していました。
経済成長が鈍れば、サラリーマン男性の収入の伸びは低下します。
結婚して豊かな家族生活を目指していた夫婦は、期待通りの収入を得られなくなりました。
そのため妻がパートで働きに行くようになりました。
その収入の大部分は、住宅ローンの返済や子供の教育費に回ることになります。
つまり、女性の自立のためというよりも、家族消費の不足分を補うための就労だったのです。
そして、低成長期には晩婚化と未婚化が進みます。
75年には30歳代前半の未婚率は男性14.3%、女性7.7%にすぎませんでした。
それ以降、未婚者、特に親と同居する未婚者が増えていきます。
彼らは「豊かな家族生活」の中で育っています。
高度成長期の若者は一人暮らしもまだ多く、貧しい生活から結婚生活をスタートしました。
しかし、親元で結婚前から家電製品に囲まれている生活を送っていると、どうしても結婚当初か
ら豊かな生活を期待してしまいます。
そのような生活が可能な収入を稼いでいる未婚男性の数は減っていきますから、結婚が遅れ始め
るのです。
連載の1回目で述べたように、親同居未婚者たちはバブル経済期に一時的に高額消費を増やしま
したが、結局は家族消費を行う新しい世帯が増えないため、ボディーブローのように日本の消費需
要を減退させていったのです。
欧米諸国でも同じことが起こりました。
夫一人だけの収入では豊かな家族生活が維持できなくなったからです。
その時に南欧を除く欧米諸国ではフェミニズム運動が起こり、女性でも自立した生活をすること
を求められました。
未婚でも既婚でも女性が自立すべき収入を得ることが一般化したのです。
これが日本と決定的に違う点です。
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※山田昌弘中央大学教授:東大大学院社会学研究科単位取得退学。専門は家族社会学
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高度経済成長期の終焉と共に、所得の減少、消費の減退、親同居世代の未婚・晩婚化、と連鎖する
社会の出現と継続・・・。
一般的な分析、定着している常識・・・。
晩婚化・未婚化は景気・経済に影響されての社会的事象・・・。
と、ここで終わると家族社会学の役割を途中で放棄したことになります。
晩婚化・未婚化の要因に必ず加えられるべきは、雇用機会均等法の導入、高学歴化などによる女性
の社会的進出、就業率の向上、それに伴っての企業や社会貢献や自己実現体験などがもたらした自立
と伴っての未婚・非婚・晩婚化・・・。
まだ他にも要因は上げられます。
要するに、単一的な要因のみ切り取って社会的事象の根拠とすることには、無理があるということ。
そして、個々にもそうした一般的なトレンドとは異なる生き方をした人間が多々いるということ。
一部のそれらの人が、社会的なトレンドを生み出してもいる、ということを認識しておくべきと考
えるのです。
その潜在的な、根源的な要素・要因の中に、「教育」があることも忘れてはならないと考えています。
保育から小学校・中学校義務教育、高校・大学教育、そして家庭内教育も・・・。
そして、そうした多様な要素・要因と付き合いながら、生き方・働き方を考え、選択し、実践(不
実践も含め)るるのは、人、個々人なのです。
家「族」ではない、個という社会の最少単位である「個人」です。