
「着床前スクリーニング」、日本産科婦人科学会が臨床研究へ:不妊治療における倫理・人権問題
前回、今月から『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』を用いてシリーズ化
しているブログの中で、不妊治療を受けている実態について触れました。
◆未婚・非婚者が感じる少子化責任過剰意識?:『超ソロ社会』から(6)
今回は、その不妊治療に関する、2017/3/17付日経の以下のレポートを
紹介します。
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不妊治療の効果探る 「着床前スクリーニング」学会が臨床研究
染色体数の異常を排除、倫理面で問題も
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晩婚化が進み、体外受精などの不妊治療を受ける夫婦が増えている。
日本産科婦人科学会(日産婦)は2月、子供が生まれる確率を高める可能性がある
「着床前スクリーニング」の効果を調べる臨床研究を始めたと発表した。
受精卵や胎児の検査は他にも「着床前診断」や「出生前診断」と似た名前のものが
ある。どのような違いや課題があるのだろうか。
卵子と精子を体の外で受精させ、体内に戻して出産する体外受精は、不妊治療の代表。
日産婦の集計によると、体外受精で生まれた子供は2014年だけで4万7千人を超え、
近年は毎年数千人の規模で増加する傾向にある。
「着床前スクリーニング」とは
しかし、体外受精を利用してもなかなか妊娠しなかったり、流産を繰り返したりする
ケースも増えている。
30歳代をすぎると、受精卵の中で、遺伝子の情報を伝える染色体の異常が起こりやす
くなることが理由の一つとされる。
そこで子宮に戻す前に受精卵の染色体を調べ、異常のないものだけを選べば、妊娠の
可能性を高めたり、流産を減らしたりできるのではないか。
これが着床前スクリーニングの発想だ。
欧米、有用性を報告
人の染色体は通常、2本1組でできている。
しかし、卵子や精子ができる過程や受精卵が分裂して成長するときに異常が起こると、
1組の染色体が3本に増えたり1本に減ったりする。
こうした異常が、妊娠しにくくなったり流産したりする原因になる。
日産婦の臨床研究は、この染色体の数を調べる。
体外受精した受精卵を培養皿で育て、「胚盤胞」と呼ぶ段階になったら一部の細胞を
取り出して染色体数を調べる。
染色体数の過不足がない正常な受精卵だけを選び、母胎に戻す。
対象は35~42歳の女性。
まず予備的な研究として、原因不明の流産を2回以上経験した「習慣流産」の50人と、
体外受精で3回以上妊娠しなかった50人にスクリーニングを実施。
検査せずに戻した場合と出産の確率などを比べ、結果を踏まえて本格的な研究の参加
人数を決める。
着床前スクリーニングは欧米で実施されているが、日本では日産婦が禁止してきた。
日産婦の倫理委員長で徳島大学教授の苛原稔さんは「海外では不妊や流産を減らせる
との報告が出ている。日本でも有用性を考えなければならない時代になった」と話す。
「着床前診断」とは
着床前スクリーニングとよく似た名前の検査に「着床前診断」がある。
着床の前、つまり体内に戻して妊娠する前に受精卵を調べる点は共通するが、着床前
診断が特定の染色体や遺伝子の異常に限って調べるのに対し、スクリーニングはすべて
の染色体を網羅的に検査する点が異なる。
着床前診断は筋ジストロフィーの一部などの重い遺伝病や、染色体の構造異常が原因
の習慣流産を予防する目的に限定して行われる。
「出生前診断」とは
妊娠後、出産の前に胎児の状態を調べるために実施するのが「出生前診断」。
いわゆるエコー(超音波診断装置)による検査のほか、新型出生前診断、羊水検査など
がある。
新型出生前診断では妊婦から採血し、血液中に含まれている胎児のDNAの断片を解析。
一部の染色体が3本になるダウン症など3種類の染色体異常の有無を推定する。
一方、羊水検査はおなかに針を刺して子宮の中の羊水を採取する。
羊水中に含まれる物質や胎児の細胞をもとに、染色体や遺伝子の異常を調べる。
出生前診断で異常が見つかった場合、人工妊娠中絶を選ぶ夫婦は多いものの、出産する
という選択肢が残る。
命の選別と地続き
これに対し、着床前スクリーニングはあらかじめ受精卵の段階で、染色体数に異常が
あるものを排除する点が異なる。
着床前スクリーニングで出産の確率が上がるようになれば、不妊や流産に悩む夫婦に
は恩恵があるが、倫理面で複雑な問題も抱えている。
染色体数が異常でも、ダウン症は必ずしも流産に至らない。
性染色体数に異常が起き、不妊などになる「クラインフェルター症候群」などでも流産
を免れる場合がある。
こうした病気の可能性がある受精卵を、妊娠する前に排除することにつながるからだ。
生命倫理政策が専門で東京大学准教授の神里彩子さんは「議論をうやむやにしたまま導
入すれば、命の選別と地続きになっている点が、きちんと認識されない恐れがある」と指摘。
体内に戻す前の受精卵ならば、人工妊娠中絶などに比べてより痛みを感じずに選別に利
用される可能性がある。
(越川智瑛記者執筆)
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染色体とは?
染色体は生物の遺伝情報が詰まったDNAとたんぱく質からできている。
普段は糸のように漂っているDNAやたんぱく質が、細胞が分裂するときは
ぎゅっと集まり、太くて短い棒状の構造になって現れる。これが染色体だ。
名前はアルカリ性の色素でよく染まることにちなむ。
染色体の数と形は生物の種によって違う。
人の場合、22組の常染色体と、性別を決める1組の性染色体を合わせた計46本
が1セット。
卵子と精子は染色体を23本ずつ持っていて、受精卵では計46本になる。
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常に問題となる妊娠中絶における倫理問題。
ここに、不妊治療における染色体異常などをめぐるいくつかの判断・選択時に
おける倫理も、一部関連して問題化されているわけです。
「命」という命題。
そこでは、まさに、命自体が価値評価の対象です。
しかし、命がこの世に出現した後の、健康や自立して生きうるかどうかという
面での人権や倫理を排除して、命を議論することには、私は少なからず疑問を持
っています。
そのリスクが、受精で新しい命を誕生させる段階と、出産というプロセスを経
て地上の新しい命として誕生した段階。
それを同一視すべきかどうか・・・。
生れくる新しい地上の命が、不幸を抱えてくることが分かった場合、その命の
在り方への倫理的配慮は、果たして、産む権利としてどう評価するのか・・・。
かけがえのない命として産むことを選択した人は、その養育・成長に真摯に向
き合うでしょう。しかし、生まれ来た子は・・・。
不妊治療でなんとか新しい命の可能性を授かった・・・。
しかし、この世に生まれた後のリスクが明確であった場合は・・・。
この記事にある「着床前スクリーニング」におけるリスク排除と命をめぐる倫理
との課題。
神の領域を超えた技術が生み出す新たな課題への判断は、やはり神の手も離れ、
人、自身に委ねられています。
第三者の手も絶対的ではありえず、技術とリスクを理解した人、当事者自身の判
断に委ねられる・・・。
現状では、そうすべきか・・・。そう感じます。
もちろん、困難な時に限らず、神は、存在しないのですから・・・。