
結婚が所得格差を生み出す高い可能性。が、それを覆す可能性を持つ結婚も
『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(筒井淳也氏著・2016/6/20刊)
を参考にして、結婚と家族を考えるシリーズです。
「第4章 「男女平等家族」がもたらすもの」
第1回:成人親子未分離社会で、未婚化・非婚化はどこへ向かうか
第2回:ミレニアル世代、ブーメラン・キッズ。欧米と共通するパラサイト世代
第3回:「結婚、出産が当たり前でない」という理由付けが得意な人間の理性・知性
第4回:共働き先にありきではない、同棲・結婚・家族形成という人生の選択肢
第5回:出生率が高くなる共働き社会に落とし穴?
第6回:トランプ政権で厳しくなる不法移民のベビーシッターやナニー活用の行方
第7回:ナニー、ベビーシッター活用に見る文化の資質性と問題点
第8回:共働き夫婦に必要な家事・育児等家庭作業の分担決め
第9回:仕事か結婚か、仕事か家事か。作業と憩いが混然とする共働き社会
第10回:セイフティ・ネットとしての結婚・家族以前に、親密性の優位性は無理?
第11回:世帯間・世代間所得格差の要素・状況を知っておく
今回は第12回です。
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第3節 共働き社会がもたらす格差 (2)
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170~174ページの内容をまとめています。
<結婚が格差を生み出す>
◆アメリカで所得の格差が大きくなった理由のひとつとして取り上げたのが、家族
形成、つまり結婚。
として
ここ20年ほどのあいだのアメリカでは、たしかに一部の富裕層に富が集中すると
いう傾向があり、それが格差を生み出したという側面もあるのですが、実は少なく
とも中位から低位の所得層についていえば、個々人が労働によって得る賃金の格差
にはそれほど大きな変化はありませんでした。しかし、世帯間の所得格差は広がっ
てきたのです。これはどういうことかというと、個々人が仕事によって獲得したお
金を「プール」するメカニズムが変化したのです。
かつての性別分業の時代には、夫が働いて給与を得るので、多くの妻は専業主婦
になり、労働所得を得ることはありませんでした。もし夫の所得が子どもを大学に
いかせるには不足している場合、妻がパートで働いて家計を補助していました。
つまり、夫の稼ぎのある家庭のほうが、妻の稼ぎは少なくて済むわけです。経済学
ではこれを「ダグラス=有沢の法則」と呼んでいます。
ところが、ワーク・ライフ・バランス政策が充実するなどしてフルタイムの共働
きカップルが増えていくと、たとえ全体的な賃金格差が縮まっていても、世帯所得
の格差は広がります。というのは、所得の高い男性がやはり所得の高い女性と結婚
し、他方で所得の低い男女が一緒になるということが多いからです。
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以下では、図を用いて説明する本文を簡略化して、その法則を例示します。
<性別分業世帯の例>
◆夫の所得800万円、妻の所得0。夫の所得400万円、妻のパート所得200万。
その合計差は200万円
<共働き世帯の例>
◆夫・妻ともフルタイムで500万円ずつ、合計1000万円。夫・妻とも200万円
ずつ合計400万円。その合計差は600万円
と結婚で格差が大きくなるというわけです。
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アメリカでは1970年代以降の所得格差の拡大のうち、所得結合パターンの変化
によって25%から30%が説明できるという研究結果もあります。
韓国でも、女性が有償労働に参加すると世帯所得格差が広がる、という分析結
果があります。日本では、実はまだはっきりとした研究結果が出されていません。
これから出てくるのだと思われます。
もしワーク・ライフ・バランスが実効性を持つようになれば、稼ぎのある男性
は同じように稼ぎのある女性とくっつかない理由がありませんので、アメリカや
韓国と同じく世帯所得格差の拡大が生じる可能性があります。
※次回は、<同類婚が格差をもたらす> です。
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1930年代にアメリカの経済学者、ポール・ダグラスが発見し、日本の経済学者、
有沢広巳(1988年没)が日本経済において実証した「ダグラス=有沢の法則」。
随分古い研究と実証であり、日本人経済学者によるものではあるが、日本のデー
タによる証明ではなく、現在もない・・・。
なにか今一つ釈然としないのですが、言わんとすることは、なるほどそうだよね、
そりゃそうなるほね、と合点はいきます。
というか、現代日本、これからの日本でこそ、その法則が実証されるのではない
かと・・・。
高学歴社会が定着し、女性の非婚・未婚率が高まる一方で、結婚願望もまだまだ
髙い。しかし、一端経験し獲得したキャリアや収入は手放したくないし、結婚する
なら同一レベル以上の所得の男性との結婚を望み、共働き当然のように続ける。
他方、まだまだ非正規社員比率の改善・向上は見られず、雇用不安と収入不安を
同時に抱える男性・女性も減らない。
それは、低収入共働き夫婦世帯が増える可能性も当然のように示している。
結婚と仕事、そして所得。
結婚の経済性が、結婚への行動と、結婚後の生活行動に大きな影響を与えている。
まぎれもない事実・現実であり、国や社会の大きな課題でもあります。
ただ、高所得夫婦世帯が、生涯その所得と生活を保障されているか、あるいは当
初低所得であった夫婦世帯が生涯その壁を乗り越えることが宿命のごとく困難か。
それは、だれにも断定・断言できないことであり、単純に楽天・悲観を決め込む
ことではないのが人生の面白いところであります。
人生を面白くする可能性は、だれにもあることと考えるのです。
結婚を通じても・・・。
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【『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』構成】
はじめに
第1章 家族はどこからきたか
第2章 家族はいまどこにいるか
第3章 「家事分担」はもう古い?
第4章 「男女平等家族」がもたらすもの
第5章 「家族」のみらいのかたち
あとがき
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【筒井淳也氏・プロフィール】
◆1970年生まれ。一橋大学社会学部卒業、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。
博士(社会学)。現在、立命館大学産業社会学部教授。
専門は家族社会学・計量社会学。
◆著書:『制度と再帰性の社会学』『親密性の社会学―縮小する家族のゆくえ
』
『仕事と家族 – 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』など。
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(参考)
一昨年投稿の『「婚活」症候群』(白河桃子・山田昌弘氏共著・2013/7/20刊)
を参考に、「結婚」と「婚活」を考えるブログシリーズ。
第1章【「婚活」流行の背景と影響】(山田昌弘)
第1回:「婚活」ブームがもたらした認識の変化「結婚できない不安」
第2回:「婚活」が恥ずかしいことではなくなった時代の幕が開いて
第3回:『「婚活」時代』の誤算、恋愛抜きの結婚願望?
第4回:希望年収600万円以上の適齢期の未婚男性5.7%の狭き門への戦い
第2章【「婚活」の誤解と限界】(白河桃子)
第5回:結婚に対する意識の変化を提案した『「婚活」時代』が生んだ誤解
第6回:婚活公認で女性がポジティブに。そして婚活未成就の負のサイクルが?
第7回:婚活ブームは「再婚活」「晩婚活」を呼び、婚活格差を招いた?
第8回:「釣り堀婚」「価格.com婚」そして「ロトくじ婚」?
第9回:結婚相手を選ぶ意識の変化以前に必要な、結婚への意識・考え方
第10回:強い女子力でも困難になった婚活時代は自活女子をめざす時代
第11回:「自活女子」「自活男子」化で一億総モラトリアム社会から脱却
第12回:社会的不妊と少子化を招く社会的不婚・未婚化改善のための働き方改革
第13回:「婚活」から「妊活」へは自然な流れ?
第4章【限界を突破するには】
第14回:婚活を成功させるために必要な女性・男性・社会の変化を考える
第15回:婚活成功のための女性の変化の条件「自活女子」とカップルのあり方
第16回:妊活・妊娠・出産を起点にして考える婚活・結婚
第17回:婚活もマーケティングと同じ法則。絞り込みで成功する婚活<女性編>
第18回:男性も変わるべき婚活時代・婚活戦線。女性の要望に応えられますか?
第19回:恋愛感情を相互の愛情に育てていけるか、結婚への道?
第20回:どうする異性観・セックス観の違いと草食系男子の面倒観ギャップ
第21回:2013年と変わらない安倍政権下の婚活をめぐる社会事情
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Ameblo から転載し、メモを追記して投稿した「結婚、してみませんか」シリーズ
もあります。